映画「万引き家族」(6月8日公開)で第71回カンヌ映画祭の最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督(55)が23日、羽田空港着の航空機で帰国し、受賞の喜びを語った。

 カンヌから、次回作の打ち合わせのため訪れたニューヨークを経てこの日夜、帰国したばかり。紺のジャケットに青いシャツのラフな姿で、トロフィーを右脇に大事そうに抱えて登壇した。「ようやくここ(日本)に帰ってきて、スタッフのにこやかな顔を見たら、ちょっと(受賞の)実感が湧いてきました」。少し肩の荷を下ろした様子だったが、「今度は宣伝活動を始めないといけない。緩んだ笑顔を見せている場合じゃない。気合を入れたい」と、6月の公開に向けて気を引き締めていた。

 トロフィーはニューヨークへは持って行かず、関係者がいったん日本に持ち帰ったため、この日が約3日ぶりの再会となった。「ニューヨークに持っていくには、本当に重すぎて…」。撮影では、顔の近くで持って欲しいというリクエストもあり、腕は筋肉痛になった。「筋肉痛が治ったのが、ようやく昨日くらいでした(笑い)」。今後のトロフィーの行方も気になるようで、「記者会見が終わったらどうなるんだろう。(スタッフと)相談します。ひと晩くらいは抱いて寝ようと思います」と笑わせた。

 祝福のLINEメッセージやメールが殺到しているが、まだ答えられていないという。「『ありがとう』と返信もできていないんです。今年はずっと撮影で、年賀状すら出せていない。一言でもいいからメッセージを返したい」と明かした。

 年老いた母の年金と、万引で得た物などで生計を立てる軽犯罪一家と、その崩壊を、リリー・フランキー(54)、安藤サクラ(32)、樹木希林(75)ら実力派俳優を起用し、描いた。日本作品のパルムドールは、97年の「うなぎ」(今村昌平監督)以来、21年ぶりの快挙。是枝監督にとっては、15年の「海街diary」以来、3年ぶり5度目のコンペ出品作で、初の栄冠となった。「役者さんが素晴らしかった。(安藤)サクラさんが泣くシーンは、カメラの横で立ち会っていても、特別な瞬間だった。今回の映画は、そんなことが何度もあった。いろんな化学反応が起きて、キャスト、スタッフを含め、いい映画ができたのかなとは思っていました」と、作品の出来には手応えを感じていたという。

 安藤の涙のシーンは、審査委員長の女優ケイト・ブランシェット(49)もとりこにしたようだ。是枝監督は「ブランシェットさんは、安藤サクラさんの芝居について熱く、熱く語っていた。(泣くシーンが)とにかくすごくて、『もし今回の審査員の私たちがこれから撮る映画で泣いていたら、安藤サクラさんのマネをしたと思って下さい』と言っていた。それくらい、彼女が女優さんたちをとりこにしたんだなと思う」と感心していた。

 会見は夜遅くにもかかわらず、テレビカメラ15台、約80人の報道陣が詰め掛け、反響の大きさと関心の高さをうかがわせた。今回のパルムドール受賞を受け、配給会社にも問い合わせが殺到しており、6月2、3日に全国で先行公開されることがこの日、発表された。公開館数も当初予定の全国200館から、300館以上で公開されることが決まっているほか、世界149カ国・地域へ販売される。