38歳、独身の女優松下恵が米国に留学し、思い悩んできた結婚、出産、人生について米国人にぶつけた日々を1本の映画にまとめた「アラフォーの挑戦 アメリカへ」(すずきじゅんいち監督)が6日、東京・新宿K'シネマから全国で順次、公開される。松下が日刊スポーツの取材に応じ、結婚、出産への思いを語った。2回目は、松下が映画を作る中で、米国人にぶつけていった結婚や出産の悩みと、その根源にある、女優として歩んできた人生について語る。【聞き手・構成=村上幸将】

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松下は93年7月、TBS系日曜劇場「課長サンの厄年」でデビューした。3月26日に急逝した萩原健一さん(享年67)が演じた主人公の娘役を演じた。95年には同系「3年B組金八先生」第4シリーズで、学級委員の伊丸岡ルミを演じるなど順風満帆なスタートを切ったが、その裏には葛藤があった。“お嫁にしたい女優ナンバーワン”との異名を取った、榊原るみの娘という現実は、良い意味でも悪い意味でも人生に大きな影響を及ぼしていた。

松下 元々、デビューは親の七光でもありましたし、人からいつも声をかけていただいて、良いポジションに入れてもらう人生でした。女優としては、早くにデビューしてしまって…ナチュラルなままの、お芝居で育っていく女優さんもいると思うんですけど、私はニコニコして人の顔色をうかがって、皆さんから良く思っていただけるようにと、八方美人で来た方なので、それがそのまま普段の生活の中でも身に付いてしまった部分がありますね。だから優等生役をやったと思うし、不良役は回ってこなかったし。ありのままの自分でやっていくタイプの方は、もっと幅広い役柄が出来ると思うんですが、私はどうしても優等生、いいお嬢さんの役しか回ってこなかったところがありますし。(悪役は)振って欲しいなぁ…でも、そういう片りんも見えないんでしょうね、多分。そこは人間の深みでしょうね。深みが見えるかどうか…私は、やっぱりニコニコとしてきた分、割と薄っぺらく浅く見られると自分でも思います。だから、やっぱり欲の問題と言いますか…。

子供の頃から、カメラや舞台の上だけでなく、人生まで演じてきたと語る松下は、自らの現状にも鋭くメスを入れる。

松下 自分が自ら役者、芝居をやりたいということで地方から出てきて、苦労して頑張っているタイプの女優ではないんですよね。そこの情熱の違いがあるのかなって。そこまで、自分が努力してきたわけじゃないですから…常に恵まれた人生を送ってきたというのがあるので。どこか中途半端で…。

そんな人生をリセットしたいと向かった米国で出会った、ダンス教師のリチャードと公務員のマイケルの同性愛カップルから決定的な言葉を突きつけられた。

「37歳でパートナーが欲しい自分? 37歳の君にパートナーがいて欲しい母親? どっちが大切?」

松下 そこは本当に、そうだったんだ! と自分でも思いましたもん。それまで(2人に)自分で母親の話をしている意識はなかったので。でも(映像を)編集した方も、すごく母親の影を感じるとおっしゃって…。1人娘ですし、母が映画製作で米国にいて十数年間も離れて暮らしていた分、そこからグッと仲良くなった感じがしますが…私の中で、母を喜ばせたいとか、結婚しないといけないという感覚で、すごく焦っていた。言われてみて、母なしで考えてみたなら、そこまで自分は結婚したいのか、したくないのかというところを突き詰められましたね。

女性は妊娠を考えた時、年齢と向き合わざるを得なくなる。ドラマ「グレイズ・アナトミー」などで知られるデビッド・グリーンスパン監督の夫人で、プロデューサーを務めるシャロンさんは、キャリアウーマンとして生きる中で松下と同じようにパートナー探しに悩んだと語った。優秀な精子バンクを調べたこと、結婚後、不妊治療をしたら3人の子宝に恵まれた一方、乳がんになったことまで明かした。それに対し、松下は「母に精子バンクか卵子凍結を頼みます。母はお金を持っているし」と返したが、映画が公開される今、どう思っているのか?

松下 本気で子供を欲しい人が卵子凍結や精子バンクまで考えるところに、私はたどり着いていなかった。多分、私の優先順位としては、幸せな結婚があって、幸せな家庭を築きたいということの方を大事に思っている。何が何でも先に子供が欲しい…とまでは、なっていないんだなと思いました。誰の子か分からないけれど、子供だけ作って、生んでおけばいい…というのは違うかなと。精子バンクまでは、思わないですね…今も。

松下は、シャロンさんと話す中で「あなたは幸せそうで子どもたちはかわいい。子供を持てるか分からない。いつも心配で不安」と泣きだしてしまう。

松下 そこが一番(感情が)出ましたね。子供が出来ない、不妊治療から始めたのに、そこからスムーズに2、3人、子供が出来て…あそこの3人のお子さんは、本当にかわいい。私も…子供は欲しいんです。

では松下にとって幸せな結婚、幸せな家庭とは、何なのだろうか?

松下 何でしょうね? 結婚を別にしなくても幸せかもしれないですし、自分自身が、まず1人でも幸せに生きていくことがあった上での、相手を幸せに出来るか? ということかなと思う。劇中でも「人に期待しちゃいけない」と誰かが言っていましたけど、人に期待しているうちは、ダメだと思います。相手もいないのにね(苦笑い)究極的な部分として、子供をつくらないのであれば、結婚しなくてもいいのかなと。一緒に暮らすとか、事実婚という形であっても、幸せであれば良いと思いますね。日本は世間の目が厳しいかも知れないですが、米国では自由な、結婚しないスタイルのカップルもいます。

劇中では、現地の弁護士から、カリフォルニアの初婚での離婚率は80%、2度目の結婚の離婚率も90%以上という、厳しく、寂しい現実も突きつけられた。

松下 結婚して80~90%離婚するというデータもありますし、それもどうかなと思いますね。1回してみればいいじゃない、離婚してもいいから…というのは違うかなと思うので。きちんとするのであれば、した方が良いと私は思うから。だからって、婚活パーティーに行って、見つけて慌てて結婚しようという気持ちにもならない。成功談もありますし、幸せという皆さんの声もありますけど…本当の一生のパートナーに出会えた方が良いと思うから。

次回は松下が、映画を作る中で芽生えた映画プロデューサー、監督への興味について、今後の可能性も含めて語る。