パリのノートルダム大聖堂の大規模火災では、マクロン・フランス大統領が「5年以内の再建を目指す」と宣言したり、名だたる富豪たちが巨額の寄付を申し出たり。考え得る「最短」の復興作業が行われることだけは間違いなさそうだ。

4月16日にこの火災のニュースを聞いたとき、最初に頭に浮かんだのが女優・岸恵子(86)のパリの家のことだった。5月から日本各地でトークショーを行う岸は、最近では横浜の自宅で過ごすことが多いようだが、半世紀近い間、日仏間を行き来する生活を送ってきた。

「パリの住居」は築400年の歴史的建造物の3階。ノートルダム大聖堂のあるシテ島のセーヌ川上流、同様に中洲のサン・ルイ島にある。パリ市内でもっとも古い歴史を持つ4区。シテ島とともに「パリ発祥の地」と呼ばれている。

今年2月のインタビューではその共同住宅の「大事件」を明かしてくれた。

「私の1階下の2階にお医者さまが住んでいたんですけど、そこの床が落ちちゃったんです。梁(はり)の間に17世紀の絵が描いてあって、それごと床が抜けたんです。貴重な絵もダメになってしまいました」

堅牢(けんろう)な石造りに見えた大聖堂の塔が焼け落ちる様には驚かされたが、歴史的建造物の意外な脆さは岸の話からもうかがえる。

「お医者さまはイヴ・シャンピ(仏映画監督、岸の元夫)と医大の同期生だったんですけど、最近亡くなりました。で、相続された娘さんが有名な建築家にお願いしてリフォームした。ところが、現代の工法でやったのがいけなかったみたいで、結局それが崩落の原因になってしまったんです。なにしろ400年前の建造物ですから」

ノートルダム大聖堂は700年前の建造物。マクロン大統領は「5年」と言ったが、復興へのハードルは決して低くはなさそうだ。【相原斎】