来月5日に“ロックの聖地”の東京・新宿ロフトでフリーアナウンサー古舘伊知郎(64)が、トークライブ「戯言(ざれごと)」を開く。今年4月に客員教授に就任した母校立大では、講座「現代社会における言葉の持つ意味」を受け持った。教壇に立った古舘は、教えてるつもりが教えられてたと振り返った。【取材=小谷野俊哉、山内崇章】

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生徒たちも僕の言ってたことを、今は分からなくていいと思うんですよね。記憶の中に入ってくれたら、うれしいなと思います。

ただちょっと、新しいことって楽しいなあと。そこからみんなと勉強し合うという。それは昔、仏教の教えを私たちに伝えてくれた、薬師寺の高田好胤先生という人がいて、僕は大好きだったんです。

高田先生が言ってることなんですけども、若い時から、小学校の時からね、僧侶になってずっと薬師寺が私の親やと。いう風に育ってきた人が“観光坊主”って言われるんですよ、口が達者で、うまい方なので。中学生、高校生が修学旅行で来るようになっちゃった。

今みたいにフレキシブルじゃないから、秋口に修学旅行が集中して忙しくなっちゃった。観光坊主とやゆされても全部いっぺんに引き受けて、中学生、高校生の修学旅行を。薬師寺を見てもらう時、仏の教え、仏教を伝えた。それで、お前はそろそろ仏教の根本哲学の方を学んで、出世街道に行く年じゃないかと言われても、観光坊主はやりたいと言って続けた。若い子に教えるのが好きなんやと言ってた。だから修学旅行のシーズンが終わって、やれやれと。

今年もようやく修学旅行のシーズンが終わってホッと一息やと言って、夜、歯を磨いて洗面をして、就寝をする前にチャプチャプ顔を洗ってた瞬間でした。いきなり反射的に、心の奥から突き抜けるように、うわっと何かが込み上げてきて、顔洗いながらボロボロボロボロ泣いている。なんで私は泣いてるんやと思った。で、その時に涙を拭って、なんで泣いてるんやと思ったら、はたと気づいた。

あ、こういうことなんやと。ずうっと子供たちに教えてるつもりだったけど、教えてるつもりが大間違い、教えられていた。彼らのね、仏の教えを聞こうとする真剣なまなざしに自分は教わっていたんだと、だからしゃべらせてもらっていたんだと。教えてるつもりが教わっていたという、その反転が初めて起きて、初めて自分の中で理解ができた涙だったと。

自分は立教大学の中でも、いつもそういうのが頭にあって。泣いてはいないんですけども、教えてるつもりが教わってることなんだといつも思っていた。だから、授業でも質問あるんだったら来てくれ、説明足りない時があるからって。それでまた、いちいちまたしゃべり出した。長くなっちゃたりしたんだけど、それも教えているようで、教わっていたんだな、と。ありがたいことですよね。

(終わり)

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◆古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)1954年(昭29)12月7日、東京都生まれ。立大卒業後の77年にテレビ朝日入社。同8月からプロレス中継を担当。84年6月退社、フリーとなり「古舘プロジェクト」設立。85~90年フジテレビ系「夜のヒットスタジオDELUXE、SUPER」司会。89~94年フジテレビ系「F1グランプリ実況中継」。94~96年NHK「紅白歌合戦」司会。94~05年日本テレビ系「おしゃれカンケイ」司会。04~16年「報道ステーション」キャスター。現在、NHK「ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!」(木曜午後7時57分)司会など。血液型AB。