仲代達矢(88)の役者70周年を記念する無名塾公演「左の腕」が13日、石川県七尾市の能登演劇堂で開幕した。

仲代は日刊スポーツなどの取材に、役者生活を振り返るとともに「これからどれだけやっていけるか分かりませんが、頑張りたい」と意欲を語った。東京公演は来年3月5日からシアター1010(せんじゅ)で。

   ◇   ◇   ◇

約650人で満員の劇場。最後のせりふが終わると同時に大きな拍手が起こった。2回のカーテンコールで仲代は、何度も頭を下げ客席を見渡した。前日に「興奮状態です」と話していた気持ちが、笑みになって表れた。客席には、涙をぬぐう姿、笑い声、立ち回りに息をのむ雰囲気、さまざまな光景があった。

昨年のコロナ禍で、主演舞台は巡演先で公演中止が決まった。95年から毎年公演してきた能登演劇堂でも開催できなかった。それでも気持ちは切れなかった。「待つことは役者の宿命。残念ではありましたが、よし次まで待とう、という気持ちでした」と話した。1日1時間ほど足腰を中心にトレーニングし、常に発声を意識して生活した。

70周年記念とコロナ禍をへた再始動の作品に選んだのが「左の腕」だ。江戸を舞台に、真面目につつましく暮らす男に、過去に犯した罪の影がつきまとう。仲代は「今は不寛容な時代。寛容な時代であれば戦争は起こらない。我々、戦争体験者は平和でなければ絶対にいけないと思っている」と現代に重ね合わせる。

役者生活は1952年(昭27)俳優座養成所入所から始まり、無名塾の原形ができて45年以上たった。演劇をやりたくて役者を志した気持ちを振り返り「よくもまぁ、70年もやってきました。われながら不思議に思っています。非常に運が良かったというか、大病をしないでここまでこられました。これからどれだけやっていけるか分かりませんけれども、頑張りたいと思います」と話した。

全国巡演中の来月13日には89歳になる。今回の公演の先は考えていないとしつつ「我々演劇人は作品を作り続けなければいけない」と力強い。能登公演後、関西、九州を回り、東京では7公演行う。さらに中部、北陸へ巡演する。全国87公演へ向け最高のスタートとなった。【小林千穂】

○…「左の腕」の原作は松本清張氏。仲代は清張作品のドラマ出演も多く、「大ファンで『左の腕』は前から読んでいた。いつかやりたいと思っていました」と話した。同作パンフレットと併せ、仲代の70年間が分かるブックレットが会場で販売される。作品年譜、写真が収録され、無名塾出身の役所広司、仲代主演の映画を手掛けた小林政広監督らがコメントを寄せた。