是枝裕和監督(59)と諏訪敦彦監督、岨手由貴子監督、西川美和監督、深田晃司監督、舩橋淳監督が組む「映画監督有志の会」は27日、日本映画製作者連盟(映連)に対して13日に提出した「労働環境保全・ハラスメント防止に関する提言書」について、映連から前日26日付文書で回答があったと発表した。

映画監督有志の会は、3月9日に「文春オンライン」が、榊英雄監督(51)が映画へのキャスティングを持ち掛け、複数の女優に性的関係を強要したと報じ、同監督がその一部を認め、謝罪したことに反応。9日後の18日に「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」と題した声明文を発表し

「映画監督による新たな暴力行為、性加害が発覚しました。報道されている行為、その内容は決して許されるものではありません。被害にあわれた方々がこれ以上傷つくことがないこと、また当該の映画監督の作品において権限のある立場の関係者は、その現場で同様の問題がなかったかを精査すること、もしあった場合には被害者のために何ができるかを検討することを望みます」

などと訴えた。

さらに24日には、フリーランスを守るための契約書のひな型を作成中の文化庁に、特にハラスメントの問題について調査、検証の必要性を要望。その上で、映画監督有志の会は13日、映連に要望活動を行い「映像業界が自らの問題として真摯(しんし)に向き合い、具体的な対策を実施してゆくための」提言書を提出。主な点として

<1>ハラスメント撲滅に対する声明の発表

<2>実態の検証・調査、防止対策の具体化

<3>ハラスメント防止のための具体的な施策の実施

<4>第三者機関による相談窓口の設置

を提言した。

それに対し、映連は「性暴力・性加害をはじめとするいかなる暴力やあらゆるハラスメントについて、決して許されないものであると考えており、これらの行為には断固として反対の立場をとるものであることは言うまでもありません」とした。その上で、経産省と連携し「映画制作現場の適正化」に向けての取り組みに参加し、19年から継続的に制度設計を推進していると説明。「映画制作現場の働き方についての全般の問題是正を命題としておりますが、当然、その中には暴力やハラスメントへの対策も含んでおります」と説明。「従いまして、本件についての考え方の公表につきましては、これらの取り組みにおけるすべての具体的施策とともに一括して行う予定です」などと説明した。

それに対し、映画監督有志の会は「各種契約書の取り交わしの履行や就業時間の制約などとあわせて各種ハラスメント等の防止についてのガイドラインの策定が目指されているとのことで、私たちはこの取り組みを評価するとともに、一刻も早く実効性のある制度が実現することを期待したいと思います」と一定の評価をした。

一方で「しかし、私たちの提言にあるハラスメント防止のための具体的な施策(提言2)や、第三者機関による相談窓口の設置(提言4)など検討事項の具体的な内容については明らかにされておらず、また実施時期についても明記されておりません」と注文を付けた。

その上で「映画監督有志の会としては引き続き検討経緯を見守るとともに、現場の声を届け、日本映画界において重要な責任を負う同連盟が、危機感をもってハラスメント防止に向けて主体的に発信、行動するよう、また『映画制作現場の適正化』において実情に応じたよりよい制度設計がなされるよう提言、協力を行ってゆきたいと思います」と、映連の動きを今後も注視していく考えを示した。

映画監督有志の会の活動の主たる目的は、フランスの映画行政を管轄する国立映画映像センター(CNC)、韓国の韓国映画振興委員会(KOFIC)といった他国の公的機関のように、製作や配給への助成金を出したりなど、映画業界において持続可能なシステムを日本国内に作ることだ。そのために、これまでも映連に働き掛けを行ってきた経緯がある。

映画監督有志の会は「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します。」と題した声明文の中で

「特に映画監督は個々の能力や性格に関わらず、他者を演出するという性質上、そこには潜在的な暴力性を孕み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません。だからこそ、映画監督はその暴力性を常に意識し、俳優やスタッフに対し最大限の配慮をし、抑制しなくてはならず、その地位を濫用し、他者を不当にコントロールすべきではありません。ましてや性加害は断じてあってはならないことです」

と監督が演出する際に、自覚を持つ必要性を強調。その上で

「映画の現場や映画館の運営における加害行為は、最近になって突然増えたわけではありません。残念ながらはるか以前から繰り返されてきました。それがここ数年、勇気を持って声を上げた人たちによって、ようやく表に出るようになったに過ぎません。被害を受けた多くの方がこの業界に失望し、去っていった事実を、私たちは重く受け止めるべきではないでしょうか」

と、映画業界では以前からハラスメント行為が行われていたと指摘。そして

「私たちには、自らが見過ごしてきた悪しき慣習を断ち切り、全ての俳優、スタッフが安全に映画に関わることのできる場を作る責任があります。そのために何ができるかを考え、改善に向けたアクションを起こしてゆきます」

と、今後の活動方針をつづっている。