俳優前田公輝(ごうき=31)が、放送中のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(月~土午前8時)でヒロイン暢子の幼なじみ智(さとる)を好演している。6歳で芸能界入りし、Eテレ「天才テレビくんMAX」に出演していた当時から朝ドラに憧れていたという。若手注目俳優の目から見た、初めての朝ドラ現場の様子を聞いてみた。【加藤理沙】

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前田が「ちむどんどん」で演じる智は、黒島結菜(25)演じるヒロイン暢子の幼なじみ。沖縄本土復帰50年に、沖縄で生まれ育ち料理人を目指す暢子に思いを寄せる重要な役どころだ。第69話で、智が暢子に思いを打ち明けたシーンでは「真剣さ、必死さが胸打たれた」「この人の演技が好きだ!」とSNSで評価の声も多く得た。

「朝ドラじゃないと経験できなかったもの」を聞くと「全部」と即答した。「スタジオ、NHKに通うこと、ほぼ1年間の撮影を通して、自分の実年齢より若い年齢から実年齢を超えて倍以上生きた人を演じること、“朝ドラといえば”の幼なじみの役を長い間、演じること。そして見渡す限り、みなさんテレビで見ている方々で、そこに参加させてもらって、憧れ続けていた場所にいられることです」と振り返った。

Eテレ「天才テレビくんMAX」「さわやか3組」など幼少期からNHKに通っていた前田にとって、朝ドラは念願の舞台だった。「花形に『朝ドラと大河』はずっとあって…思いは人一倍ありました」。出演決定の時は信じられなかったといい「最近やっと撮影終盤で、夢じゃなかったと認識するくらい」とほほ笑んだ。

長期間、撮影が続く朝ドラの現場は「これまで出演したドラマとは全く違う」と言い切る。撮影は昼から始まり、終了の定時は午後8時。「カット数が少なくて、全部ワンカット。普通のドラマは1ページの中で2、3個のセリフで撮って、次のカットと進んでいきます。朝ドラは、一部リテイクはあっても、2ページくらいを通して一発で終わるのがベースです」と、長期ならではの独特のペースがあることを明かした。

スタッフの数やカメラチームにも目を奪われた。「スタッフさんもですけど、カメラの数がとにかく多い。スタジオで5つのカメラをテトリスみたいに組み立てて『そんな隙間から撮れるんだ』と驚きました」。さらに朝ドラの撮影スタジオの隣が大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜午後8時)のスタジオであることも刺激的と話す。「大河の役者さんが役の格好で来ることもあって。一流な時間を過ごさせてもらっている感覚」。

ドラマでのリハーサルも初めての経験だった。「リハは1シーン10分くらいで次に行く。1週間分以上のリハを1日でやることもある。役者それぞれにルーティンがあるので最初はリズムが変わることが怖かったけど、今はリハーサルがある方が安心して臨めます。舞台稽古に近い感じです」。リハーサルの存在は良い影響しかないといい、「これだけ長く、関係も密な作品、役なので、私服姿でリハーサルをして、それ以外にも世間話をしたり、役の格好ではない、その人とコミュニケーションが取れて、人柄も知って、役に生きたんです」。

半年以上、同じ役に没頭する。第69話は智の見せ場であるプロポーズシーン。「2週間くらい前の撮影で台本が上がってきて、どう組み立てるかなと。僕の描いている以上に感情的だったので、自分も気持ちを持っていくための逆算していて、そのシーンが終わったときは安心しました」。前田にとってもひとつのゴールだった。

毎日15分放送される朝ドラでの反響は特殊だと感じている。「ツイッターのトレンドもトップですし、不思議な感覚ですね」。エゴサーチをすると「『智の言動は怖いけど、前田公輝の演技は素晴らしかった』と書いてあって。自分の知らない魅力に発見がありました」。

朝ドラ出演で「こんなに得るものがあるとは思わなかった。一生できちゃうかもしれない(笑い)。経験を積んで、また朝ドラをやらさせてもらえたら、もっと実感できるかも」。次があるなら「ノンフィクション作品の男ヒロインがやりたい」と意気込む。

子役からキャリアを積み重ね、念願の朝ドラでさらに注目された前田。08年の日本テレビ系ドラマ「ごくせん」で共演した先輩と、朝ドラでの再会もあった。「仲間由紀恵さんが、久しぶりに顔合わせでお会いした時に『いつも見ているよ。ずっと共演できるのを待ってた』と言ってくださった。僕も『いつか共演できるのを楽しみにしていた』と言える役者になりたい」と目を輝かせた。

▼朝ドラ出演で役者に対する思いにも変化があり「別の作品にも良い刺激となった」という前田。9月9日には轟洋介役が話題となったシリーズ続編、映画「HiGH&LOW THE WORST X」(平沼紀久監督)の公開を控える。さらに、10月5日には約2年ぶりのセカンド写真集「ちゅらたび」の発売も決定。前田自身、ルーツがあると感じ、朝ドラの舞台でもある沖縄でプライベート感たっぷりの写真を全編撮り下ろしした。

◆前田公輝(まえだ・ごうき)1991年(平3)4月3日、神奈川県生まれ。6歳で芸能界デビューし、03年から06年までEテレ「天才テレビくんMAX」に出演。08年に映画「ひぐらしのなく頃に」で初主演、09年に公開された、続編「ひぐらしのなく頃に誓」にも同役で出演。10年に「白虎隊・ザ・アイドル」で初舞台初主演を果たす。16年から「HiGH&LOW」シリーズに出演し、最新作「HiGH&LOW THE WORST X」(平沼紀久監督、9月9日公開)も出演。特技はボウリング、アクション、空手。180センチ。