眞栄田郷敦(23)の初主演映画「彼方の閃光」公開記念舞台あいさつが8日、東京・TOHOシネマズ日比谷で行われた。冒頭で、通常の舞台あいさつでは、そう見られない光景が展開された。眞栄田をはじめ池内博之(47)尚玄(45)伊藤正之(65)加藤雅也(60)が、檀上で1分間の黙とうを行ったのである。

半野喜弘監督(55)は登壇早々、黙とうを行う意図を切々と訴えた。「82年前に日本が米国、英国に宣戦布告し、長い悲しい歴史が始まった日であります」と、この日が1941年(昭16)に日本が米国に真珠湾攻撃を仕掛けた日であると説明。「(現代も)戦争がなくなっていなくて、続いていて、たくさんの人が亡くなっています。その方達のために黙とうさせてください」と言い、檀上で俳優陣と黙とうをささげた。そして「人々が平和に意識を向ければいいなと思い、この映画を作り始めた気がします」と、世界平和を希求する思いが製作の動機になったと明かした。

そうした発言が生み出された“土壌”こそ、フランスに拠点を置いて世界で活躍してきた、これまでのキャリアと人生だろう。半野監督は、10月に引退が明らかになった台湾のホウ・シャオシェン監督(76)ら世界的な巨匠の作品の、映画音楽を多数、手がけてきた世界的音楽家だ。母国語の日本語で映画を作りたいという思いから、2年前に東京に拠点を移すまでフランス・パリに20年在住した。

半野監督が生活してきた欧州では、22年2月にウクライナに侵攻したロシアが、先立つ14年に南部のクリミアを併合している。中東でもイスラエルがパレスチナ自治区ガザに侵攻と、世界の各地で戦争、紛争が継続して行われている。海外で20年にわたって生活し、そうした悲しい現実を見てきたからこそ「平和は当たり前のように手のひらの上にあるが、いつ、こぼれ落ちるか分からない」という言葉には、実感がこもっている。

「彼方の閃光」では、原案と脚本、音楽、スタイリングまで手がけた。オリジナルの物語は、眞栄田が演じる光が米軍基地や長崎、沖縄などのテーマに取り組んだ戦後日本を代表する写真家・東松照明の写真に強く導かれるように長崎へ向かう。そこで、池内演じる自称革命家の男・友部に出会い、ドキュメンタリー映画製作に誘われて長崎、沖縄の戦争の痕跡を訪ね、その記憶をたどる。光の60年あまりを描く大河ドラマでありながら、戦争を考えるという社会的な側面も強い映画となった。

半野監督は「本当に、日本人として戦争ということを少しでも考えることは大切だと思います」と訴えた。池内も、演じた友部のセリフを引き合いに「セリフでもありましたけど『世界中の至る所で爆弾が落ちている』と言った。今、世界中で戦争が起きていて…この映画がこのタイミングで見られるのは大きな意味がある。受け取って欲しい」と続いた。

近年、安全保障に関する議論がなされ、防衛費の財源確保に向けた増税に関するニュースも報じられている。そうした今だからこそ、日本以上に戦争、紛争が日常に迫る欧州、海外で生活してきた半野監督の言葉と、平和への思いを込めて作り上げた「彼方の閃光」には、今の日本人にとって大事なものが、たくさん詰まっているのではないだろうか。【村上幸将】