演歌歌手市川由紀乃(49)が10月6日に、東京・丸の内の国際フォーラムホールCで、「市川由紀乃 リサイタル 2025 『新章』」を開催した。
オープニングで、特大の筆で文字を書くはかま姿の市川の映像がスクリーンに流れた。暗転後、「新章」の大きな文字が映し出された。市川本人が考えて、書いたリサイタルのタイトルである。
市川は「新たな歌手人生の始まり、決意を、リサイタルのタイトルにしたいと思いました」と話した。
リサイタルは2年ぶりとなる。前回はデビュー30周年イヤーのメインイベントだった。タイトルは「市川由紀乃 リサイタル 2023 ソノサキノハジ真利」だった。
30周年後に向けたスタートを意味する「その先の始まり」を、片仮名と本名(村松真利)で表現した。市川は「これから歩む自分、ありのままの自分らしい歌手人生を、どうか見守ってほしい」という思いを込めたと説明した。
しかし、「その先」にあったのは、大病だった。昨年6月に、卵巣がんで活動を休止した。6時間に及ぶ摘出手術と、5カ月間の抗がん剤治療に耐えて、今年3月にテレビ出演で活動を再開。5月には「ただいま!」というソロコンサートもスタートさせた。
市川は開演前の取材で「約2年ぶりで、ドキドキ、ワクワクの新鮮な思いで舞台に立たせていただきます」と素直に心境を話した。
人気を不動にしたヒット曲「命咲かせて」からリサイタルがスタート。3曲を歌い終えると、「お越しいただき誠にありがとうございます。心から感謝申し上げます。こうして舞台に立たせていただいていることが、奇跡のように思います」と、満員の1500人の観客に語り掛けた。
オリジナル以外では、尊敬する歌手ちあきなおみの歌世界を表現。特に人間の心の奥底にある闇の世界を歌った「夜へ急ぐ人」は、圧巻の歌唱だった。
さらに「サムライ」(沢田研二)の世界観を軸にしたショート歌謡ミュージカルという新境地にも挑戦した。「TATTOO」「十戒」(ともに中森明菜)「アンダルシアに憧れて」(真島昌利)などで、マフィアの抗争に巻き込まれた男女2人の運命を、歌で劇的に表現した。
市川はこれからの歌手活動について「女性の奥底に眠っている(ものを歌う)楽曲が好き。その世界を追求したい」と語る。その言葉通り、クライマックスでは女の情念、悲恋をセリフ入りで歌い上げた。
「雪恋華」では、純白の着物から黒い着物ドレスに早替わりして、雪が舞う演出の中で熱唱した。その鬼気迫る歌唱に、万雷の拍手が巻き起こった。
抗がん剤治療の影響で、まだ指にしびれがあるという。それでも「いつかなくなると前向きにとらえています」と明るく語る。母と一緒に美容院に行き、髪を整えてもらうのが「楽しい」と笑みを浮かべる。
そして「昨年の今ごろは抗がん剤治療をしていました。いろいろな経験があったから、新しい市川由紀乃を届けられると思います」と、自信に満ちあふれた口調で話した。
この日歌ったカバー曲は11曲中10曲が、初披露だった。リサイタルにかける、市川の並々ならぬ意気込みを感じた。
締めくくりは最新曲「朧(おぼろ)」。「朧」とはぼんやりとかすんでいる様を言うが、それでも先を見据え、悔やむことなく愛に生きる女の情念を歌い上げる。『その先』を見失いかけた市川の心情をも映し出した曲である。
最後に「これからの市川由紀乃、さらに精進してまいります」と声を震わせてながらも、力強く誓った。市川由紀乃の新章が、スタートした日だった。【笹森文彦】



