作家の一雫ライオン氏(52)を取材した。今年3月末に刊行した最新刊「六月の満月」についての取材だが、作家さんを取材する機会はなかなかないため、貴重な機会でもある。
ライオン氏の取材は昨年、前作「流氷の果て」出版時のインタビュー以来だ。「流氷の果て」はライオン氏の特徴でもある情景&叙情描写に富むボリュームたっぷりで、読み応えのあるミステリー作。それでも、登場人物をしっかり描き切ることで共感を持てる没入感とテンポのよい文体から、かなり読みやすい作品となっている。
前作の取材を機に、ライオン氏の作品「ダー・天使」「二人の嘘」を読破。前作は事件に巻き込まれ亡くなった父親が、天国からわが子を見守るハートフル物語。後者は「十年に一人の逸材」と言われる女性判事とかなしい偽証で真実を隠し通した元服役囚の純愛物語だ。いずれも、“人間ドラマ”を紡いだ作品だ。一記者風情で恐縮だが、実は、読後の感想や率直に感じた疑問点などをライオン氏に送っていた。
だが、「六月の満月」の感想は送っていなかった。それは、取材の時に直接話そうという思いと、単純におじさん記者もそれなりに忙しかったということもある。
そして取材当日、ライオン氏からまず言われたのが、「物足りなかったですか?」だった。「そんなことはないです! 今回も“人間ドラマ”が秀逸でした」というような回答をしたが、内心は「?」の渦だった。
人間観察力の高いライオン氏は、おじさん記者の内心を察してか、「いつも感想を送ってくれるのに、今回は送ってくれなかったから、物足りなかったのかなと思って」とすると、「取材で説明しようと思ってきましたよ」とほほ笑んだのだった。
また、「取材ではいつも愛情を感じながら、感想の鋭いご指摘に刺激をいただいています」とすると、「とにかく、書いてくださる記事の文体から思いを感じています」と続けたのだ。 これはおじさん記者にとって最高の賛辞であり、思わず泣きそうになった。仮にお世辞だとしても、これほどうれしい言葉はない。約10年間の芸能記者生活で、大沢樹生さんの記事を書いた時、ご本人から連絡をいただいたことと並ぶ思い出となった。
「六月の満月」は「二人の嘘」を担当した有馬大樹氏が、独立して立ち上げた流星舎の創立1作目でもある。有馬氏も取材に同席したこともあり、「二人の嘘」から「六月の満月」に至る過程のリアルな“人間ドラマ”に触れることができた。
ライオン氏ほどの筆力がないのは当然たが、おじさん記者なりに思いを込めた記事はニッカンスポーツコムにアップされているので、ご一読いただけると幸いです。【川田和博】



