映画「竜馬暗殺」「ツィゴイネルワイゼン」などで知られる俳優原田芳雄(はらだ・よしお)さんが19日午前9時35分、上行結腸がんから併発する肺炎のため、都内の病院で死去した。71歳だった。今月11日には主演映画「大鹿村騒動記」(阪本順治監督)の完成試写会に、医師の反対を押し切り、車いすで登壇したばかりだった。通夜は21日、葬儀・告別式は22日に東京・青山葬儀所で営まれる。

 関係者によると、原田さんは前日18日までは意識があり急変したという。この日午後2時45分ごろ、都内の自宅に無言で帰宅。長男のミュージシャン喧太らが出迎え、長女の女優原田麻由が「おかえり」と声を掛けると、拍手が起きた。自宅には「大鹿村-」で共演し、プライベートでも親交のあった石橋蓮司をはじめ、大楠道代、佐藤浩市、桃井かおり、広田レオナらが弔問に訪れ、別れを惜しんで深夜まで酒を酌み交わした。関係者が「役者原田芳雄の魂は永遠に生き続けます」という喧太のメッセージを代読した。

 11日の舞台あいさつには、医師が付き添っていた。医師は「99%無理」と、登壇を止めたという。しかし自分で企画した念願の作品。力を振り絞り車いすに乗って出席した。ただあいさつはできず、石橋が「今日はどうもありがとう。どうぞごゆっくりご覧ください」と代わってあいさつし、原田さんは観客の拍手に涙を見せた。

 3年前の大腸がん手術以来、抗がん剤治療を続けてきた。今年5月まで日本テレビ系「高校生レストラン」の撮影をしていたが体調を崩し「ヒマラヤに修行に行く」という設定で、全9話中7話までの出演になった。同4日には長野県大鹿村で「大鹿村-」のイベントに出席したが、同7日に検査を受け入院した。

 しかし、情熱を失うことはなかった。今月には阪本監督に「オカマ役や、またたびものもやりたい。2月29日にはライブをやりたい。(米歌手)トム・ウェイツのように歌う」と、来年のうるう年に来る誕生日の企画も話していた。

 アウトローな役を多数演じてきた原田さんは、日本人形の職人だった父親の大反対を受け、会社員の立場を捨てて俳優になった。23歳で俳優座養成所に入り、しばらくは好青年役が多かった。68年、ドラマ「十一番目の志士」で土方歳三を演じ、翌年のドラマ「五番目の刑事」の型破りな刑事役で注目された。69年に初主演した映画「反逆のメロディー」ではヤクザを演じた。最初の台本では主人公は死なないはずだったが、原田の主張で変更され、雨の中、ライフルで撃たれる場面が話題になった。

 71年には「地に足を着けた芝居がしたい」と俳優座を退団。その後も「竜馬暗殺」「ツィゴイネルワイゼン」「どついたるねん」「父と暮せば」など、話題作に出演、映画賞でも常連だった。圧倒的な存在感があり、優しい父親からアウトローまで幅広く演じた。素顔はシャイだったそうだが、最後まで俳優だった。原田さんは主演映画の公開を見届けるという最後の仕事を仕上げ旅立った。

 ◆原田芳雄(はらだ・よしお)1940年(昭15)2月29日、東京生まれ。高校中退後、61年に俳優座養成所入り。68年「復讐の歌が聞える」で映画デビュー。71年に俳優座を退団。76年「祭りの準備」「田園に死す」でブルーリボン助演男優賞、89年「どついたるねん」で映画各賞を受賞。90年「浪人街」「われに撃つ用意あり」と92年「寝盗られ宗介」でいずれも日刊スポーツ映画大賞主演男優賞。「竜馬暗殺」「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」「美しい夏キリシマ」「父と暮せば」など数多くの話題映画に出演したほか、ドラマ出演も「砂の器」「白洲次郎」「不毛地帯」「火の魚」など多数。03年に紫綬褒章を受章。175センチ、血液型A。