【香港20日=三須一紀】3人組音楽ユニットw-inds.が、香港公演を成功させた。尖閣諸島国有化をめぐって反日デモが激化し、日本人アーティストの中国公演中止、延期が相次いでいる。04年から中華圏での音楽活動を続け、絶大な人気を誇る同グループは、大型ホールに満員となるファン4000人を集めてステージを披露。不変の人気を印象づけると同時に、音楽を軸にした日中文化交流の灯をつないだ。

 開始2時間前から中国のファンは会場前にごった返した。約200人が思い思いに横断幕や看板を製作。ここには尖閣諸島問題はない。ただ、w-inds.を見たいという気持ちだけだった。中国・杭州から来た21歳女性は「政治と音楽は関係ない。w-inds.だけじゃなく、好きな日本人アーティストだったらサポートする。愛国心はあるが、両国とも冷静に考えて」。メンバーが19日に香港入りした際も、午後10時の香港国際空港に約500人が駆けつけた。

 友好的なファンの声ばかり聞こえてきたが、実は9月末まで、開催の正式決定はできなかった。9月は反日デモが激化し、開催予定だったヒップホップ歌手KREVAの香港公演は中止に。日本テレビ系スペシャルドラマ「金田一少年の事件簿」の香港ロケもトラブルが発生した。26日に行う予定だった谷村新司の上海公演も延期となった。

 ボーカル橘慶太(26)は「僕らは中止にはしたくなかった。中止にすることで(日中)関係を悪くするのかなと。やっぱり音楽を通して日本、中国の懸け橋になって距離を近づけたかった」。決意は固かった。

 04年の台湾公演から始まった中華圏での活動。香港公演も2年連続3度目だ。アンコール3曲を含む20曲を熱唱してファンを喜ばせた。「瞬間、瞬間ですごい幸せな気持ちになる」とダンス、ラップ担当の緒方龍一(26)。リーダー千葉涼平(27)も「香港公演は終わったときにハッピーになれる」と充実の表情だった。

 香港の24歳女性ファンは言う。「反日デモが起きたが、あれは中国国内の教育が浸透していない問題でもある。政府は教育問題を解決し、彼ら(デモを起こした民衆)のことを考えないといけない」。中国国内には冷静な考えも多い。橘も「日本の文化を使って交流したい」。中国公演は今後も続ける決意を示した。

 ◆w-inds.のアジアでの活動

 04年の台湾公演を皮切りに台湾3回、香港3回、上海2回の単独公演を行い、計6万9000人を動員してきた。07年には「香港返還10周年記念コンサート」に日本人アーティストとしては唯一参加。08年には都内で中国の胡錦濤国家主席の前で歌ったこともある。香港の「レコード大賞」といわれる「IFPI香港ベストセールス大賞」の日韓部門を7年連続、9作連続で受賞。これは日本人最多。