東京都の「まん延防止等重点措置」後、初の「ハナキン」を迎えた16日、“南北問題”と称されているJR三鷹駅周辺に潜入した。

北口は対象エリアとなっている武蔵野市で、午後8時まで(酒類提供は同7時まで)の営業時間短縮。南口は三鷹市でエリア外のため、同9時(同8時)まで。駅を挟んで1時間の“時差”が生まれている。

午後7時、北口の飲食店は、ほとんどが閑散としていた。午後8時を過ぎると、南北でネオンの明暗がはっきりと現れた。北口では駅前の飲食店ビルの明かりが消えると、街自体が消灯したかのように静まりかえった。駅の向こう側(南口)の空に反射しているような明かりの気配が、格差を感じた。「僕たちは武蔵野市の住人なので、外食するならなるべく北口で食べようかなと思った。でも仕事帰りで8時までだと、やはりちょっと寂しいですね」。居酒屋から出てきた男性の言葉と優しさが、心に染みた。

一方、三鷹駅の改札口前を通って南口に抜けると、別世界のようだった。飲食店、カラオケ店、消費者金融などの看板がまぶしく感じた。南口から徒歩数分の「みたかドラム缶横丁」は、午後7時半には、ほぼ満席状態だった。午後8時すぎ、慌てて階段を駆け上がっていった2人の男性客。「お酒のラストオーダーに間に合いませんでした」と無念の表情。うなだれながら階段を下る途中、ペレス・プラードのマンボミュージック「マンボNO・5」を引用し、数十年前に流行した掛け声「ウ~、マンボウ!」と叫んで、悔しさを少し解消させていた。「マンボ」と「まん防」をかけたのかは、本人のみぞ知る。

午後9時すぎ、飲食を終えた北口(武蔵野市)の企業に勤務する30代男性は、「いつもは北、南は関係なく店を選んでいます。でも今日は少しでも長く飲みたいと欲が出てしまいました。スミマセン」。少しだけほおを赤くしながら、足早に帰路についた。足どりは軽やかだった。

武蔵野市役所、武蔵野警察署などがある北口に店を構える「肉×クラフトビール ムサシノバル」の清水亮太郎店長(32)は「仕方がない」と線引きに納得はしている。「でも、1時間の差は、すごく大きい。実際に初日(13日)から3件の予約取り消しがあった。南口に流れているかは分からないけれど、あきらかに売り上げは(前週より)減っている」。ランチ営業を開始したり、酒類の時間限定割引を実施してきた「ハッピーアワー」を、営業時間内全時間で適用するなど工夫。提供時間が短くなったことで、飲み放題プランなどを利用する客は皆無。4店舗ある系列店で唯一対象エリア外にある西東京市の店舗だけが、売り上げ微増の状況だと言う。

駅の目の前にある「駅前酒場 昜木屋(ようきや)」の黒木美和子店長(55)は風評被害も懸念した。「南北問題と騒がれて、北口は営業すらしていないようなイメージになっている。ずっと要請に従ってきた。うらみつらみはないけれど、だんだん、時短は意味があるの? とさえ思ってきている。営業時間を普通に戻して、分散させたうえで対策をしたほうが効果があるような気もしています」。販売しているたこ焼きの売れ行きは好調なこともあり、店舗内で人気の生パスタやドレッシングを店頭販売する計画も新たに進めている。

今後は、売り上げ回復、そして南口(三鷹市)への顧客流出も防ぐため、市、警察、商店街らが連携し、23日から「オープンテラス武蔵野」が実施される予定だ。北口周辺の歩道に机やイスを並べ“青空飲食街”をオープン。テークアウトと併用し、3密などを回避しながら増収にもつなげていく。当然、5月11日までは時短を厳守する。

東京都は、飲食店数、直近4週間の感染者数および感染率、ターミナル駅の有無などを総合的に判断し、23区と6市を対象エリアに選んだ。飲食店数に限っては、23区同等数も基準の1つ。2065店と市町村でもっとも多い八王子市を含め、結果的には上位6市が対象となった。武蔵野市は1219店、6番目の調布市が855店。この項目だけが判断要素ではないが、7番目の西東京市は580と大きな開きがある。小池百合子都知事も「このような状況は三鷹駅ではない。仕方がない部分もある。そこは状況を判断いただき、的確に対応いただきたい。三鷹駅周辺に関しても、ご理解はいただいている」と都民の意識に呼びかけている。

だが、1時間の差に、多くの苦悩を都民が抱えていることは事実。テレビでは午後7時から9時をゴールデンタイムと言うが、飲食店にとっても、その半分が削られたも同然。コロナ感染防止対策の重要性は理解しているつもりだが、飲食店と消費者の両方の心情にも直面した1日だった。【鎌田直秀】