好きな馬に、会おう。今回の「ケイバラプソディー ~楽しい競馬~」では、桑原幹久記者が競馬にハマるきっかけを作った07年高松宮記念馬のスズカフェニックス(せん)に初対面した。北海道浦河町の「うらかわ優駿ビレッジ AERU(アエル)」で余生を過ごし今年で20歳を迎えた。

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右手の感触は、一生忘れられない。新千歳空港から車で約2時間半。牧場訪問日はあいにくの雨空も、馬房から外に出たスズカフェニックスは黄金色に輝いて神々しい。鼻、背中にそっと触らせてもらうと、ほんのりと温かく、感動でゾクッと身震いした。暴れず騒がず、終始落ち着いた様子。功労馬の世話を担当する太田篤志さんは「スズカは今年で20歳ですけれど馬体も立派ですし、特に気になるところもなく健康ですね」と表情を崩した。

今、この記事を書いているのは「スズカ」のおかげだ。自分が中学2年の07年。家のテレビで偶然、高松宮記念を見た。豪快な差し切りを決め、馬上で力強く右拳を握る武豊騎手。競馬に関心はなかったが、たった1分と数秒で人馬に心を奪われた。

あれから15年。浦河へ足を運ぼうと強く思ったのは今年2月。同牧場で余生を過ごしたタイムパラドックスが息を引き取ったことを知ったから。太田さんは「スズカとタイムは兄弟のような関係でした。タイムが兄貴分でいつも2頭で楽しそうにしていましたね」と、どこか悲しげに懐かしむ。2頭は同じ栗毛で額の模様もうり二つ。太田さんが更新するSNSやYouTubeでも、じゃれ合い動画は人気を博す。8月いっぱいまで設置される厩舎内の祭壇・記帳台には、多くのファンが集まった。

17年から同牧場に在籍するスズカは少し寂しがりだという。放牧中も1頭だと落ち着かず、人影が見えると寄ってくる。タイムが旅立った直後は落ち込んだ様子だったが、今は12歳上のウイニングチケットにも心を寄せ、元気に過ごしているという。そんな様子を生で見聞きし、何とも言い難い安心感が込み上げた。

昨今、スマホゲームなどの影響で引退馬への注目が増えた。ただ、各牧場によってルールがあり、守らなければ触れ合う機会も減ってしまう。午前7時から午後4時ごろまで功労馬を見学できる同牧場でも、体調面の考慮からにんじんを与えることは禁止されている。会える時に会い、そっと元気でいることを願う。思い入れの強い馬に長生きしてもらうためには-。改めて考えるきっかけになればと思う。

【桑原幹久】(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)

07年の高松宮記念を制したスズカフェニックス(右)
07年の高松宮記念を制したスズカフェニックス(右)