<坂口正大元調教師のG1解説>

内回りへと入った2周目の3~4コーナーが象徴的でした。先頭を行くタイトルホルダーの横山和騎手は手綱を持ったまま。対照的に、2番手テーオーロイヤル、3番手ディープボンド以下のジョッキーはみな、手が動いていました。

直線では必死に追いすがる後続を尻目に、悠々と突き放して7馬身差。同世代との菊花賞が5馬身差の勝利でしたから、年上も相手にしたこの圧勝は、古馬になってさらに強くなったことの1つの証明でした。

勝因は馬場とペース、そして鞍上の勇気でしょう。レース2日前の金曜と当日午前中に降った雨で、馬場はやや重。勝ち時計が3分16秒2もかかっていることから、かなり緩い馬場でした。他馬がそれを気にして、タイトルは苦にしなかった。逃げて、上がり最速(36秒4)の脚を使えたのは力の差であり、馬場適性の差でした。

また、最初の1000メートル通過が1分0秒5。ミドルペースですし、タイトルには普通のペースですが、馬場を考えても他馬にはきつかったはずです。冒頭のシーンを見ても、心肺機能に明らかな差がありました。

何より、迷わず主導権を握り、馬を信じて攻め抜いた横山和騎手の勇気に拍手です。6歳下の弟・武史騎手は昨年、早々とG1を5勝もして名を上げました。結果だけで比較されるのが勝負の世界。焦りやプレッシャーがあったかもしれません。ですが、和生騎手も昨年あたりから着実に力をつけ、実績を残してきました。そうでなければ、これだけの馬を頼まれることはありません。その起用に応えた勝利、そして父、弟と重なる左手を挙げるポーズ。記憶に残る競馬でした。

1番人気ディープボンドは2着に敗れましたが、最後に和田竜騎手と馬の意地を見た思いです。直線半ば、完全にテーオーロイヤルが2着で決まったところから、しぶとく伸びてかわしました。勝ち馬との7馬身差はなかなかひっくり返せる差ではなく、脱帽するしかありませんが、強さは見せました。そのロイヤルは、タイトルをつかまえに動いた結果の3着です。立派な競馬でしたし、今後が非常に楽しみです。(JRA元調教師)

天皇賞・春を制し、タイトルホルダーをねぎらう横山和生騎手
天皇賞・春を制し、タイトルホルダーをねぎらう横山和生騎手