テーマは「背番号マイナス100」だ。

阪神佐藤蓮投手(24)が育成契約となった。来季から背番号が30から130に変わる。冷たい風が身に染みる12月上旬の鳴尾浜。その表情に、一点の曇りもなかった。

「来年は背番号130の『1』を外すってことしか考えていないです」

育成契約を告げられたのは10月。フェニックスリーグ期間中、宮崎のチーム宿舎で、すでに気持ちは切り替わっていた。

11月は高知・安芸キャンプではなく、鳴尾浜で残留練習に参加。練習日は毎日ブルペン入りし、計1000球以上投げ込んだ。

「安芸組に負けてられない。ここでやらないと後悔する」

岡田彰布監督(65)から「毎日ブルペン入り」を指令されていた安芸の投手陣に匹敵する球数。覚悟を胸に黙々と腕を振った。

プロ2年間で1軍登板はなし。今年は右肘痛や腰痛など度重なる故障の影響で、ウエスタン・リーグでは9試合の登板にとどまった。150キロオーバーが自慢の球威は鳴りを潜め、持ち味の大きな弧を描くカーブが生きない。コントロールにも苦しんだ。

「育成ドラフトで入ってきた選手とは意味合いが違う。自分は1軍の戦力にならないと支配下に戻れない。『佐藤蓮を使ってみたい』ってならないと」

厳しい現実と正面から向き合う。自ら道を切り開いていかなければ、明日はないと分かっている。

ただやみくもにもがいているわけではない。12月は「あの人の練習量、ヤバイっす」とリスペクトする加治屋蓮投手(31)と、鳴尾浜で行動をともにする。

朝食後、朝8時過ぎにはトレーニングルームへ。すでにストレッチを開始している加治屋とともに、「地獄です」と表現するバイクマシンのトレーニングで汗を流す。

「練習量はウソをつかないから」。今年39試合登板で防御率2・43とカムバックを果たした同じ名前の先輩の言葉が、背中を押してくれた。

「『これだけやってダメなら納得できるわ』ってくらいやるだけです」

支配下復帰ルートも明確に描く。「シーズンが始まる前に背番号から『100』引きたいっていうのはもちろんあります」。そのためには1、2軍ともに沖縄で行う2月のキャンプ初日から、フルスロットルで臨むことが最低条件になる。

「(1、2軍の)入れ替えも狙いたい。オープン戦でチャンスもらって、1試合でも2試合でも投げて抑えるしかない」

狙うは1軍の中継ぎ枠。立ちはだかるのは12球団屈指のリリーフ陣のライバルたちだ。

ただ、思えば、今年最優秀中継ぎ賞を獲得した湯浅京己投手(23)は、昨年までプロ通算3試合の登板。今年32試合に登板しプロ初勝利をつかんだ「なべじい」こと渡辺雄大投手(31)は、開幕前に育成から支配下に昇格した。

歯車が1つでもかみ合えば…。一気に流れが変わるのもプロ野球の世界だろう。

佐藤輝明内野手(23)、中野拓夢内野手(26)、伊藤将司投手(26)を獲得した阪神の20年ドラフト。最速155キロのポテンシャルを買われ3位で指名された秘密兵器が覚醒すれば、プラチナ級の輝きを放つドラフトになる。

「2月最初の実戦で絶対に結果を残せるようにやっていくだけです」

「背番号マイナス100」に向けての戦いはもう始まっている。冬の鳴尾浜で、燃えるような熱い覚悟がほとばしり続けた。【阪神担当 中野椋】