ドジャース大谷翔平投手(29)の誕生で、カリフォルニアを訪れる日本人がますます増える。“最高のプレイグラウンド”を全世界にPRするカリフォルニア観光局のプレスツアーに日刊スポーツの野球記者が参加。市販ガイドブックにはない魅力を探した。

    ◇    ◇    ◇  

大谷がいた。ロサンゼルス空港の南10キロほど、ハモサビーチ。分厚い胸が向く海のかなた1万キロには、日本列島がある。

酒店「オーシャン・ビュー」を営むノームさんが腕のいい画家に頼み、2カ月かけて壁画が完成した。ロサンゼルスには大谷の壁画が4月時点で4つ。1つの文化になりつつある。

ハモサビーチ近くにあるドジャース大谷の壁画(撮影・金子真仁)
ハモサビーチ近くにあるドジャース大谷の壁画(撮影・金子真仁)

ビーチを南へ。日本と違ってピア(桟橋)が高い。波が高いから。岩手県を長く取材した身としては、恐怖を感じるほどの高い波だ。それが砂浜まで残り100メートル少々で一気にほどけ、波打ち際では水鳥が戯れるほど穏やかに。サーファー天国。狭い日本のビーチとは段違いのスケールだ。

ハンティントン・ビーチで、もふもふな白砂の上に寝転ぶ。「クローズ、ユア、ア~イズ」。デニス・ゴセリン・スタナックさんの声が耳に届く。ビーチヨガを体験した。

目を閉じる。聞こえるのは波音のみ。「何も考えないってこういうことか」とだけ考える、無の時間。日本でも同じことはできる。カリフォルニアのビーチが違うのは、割と活発に海鳥たちが飛び交っていること。表情まで見える。生き生きとしている。地球にいる自分、を実感できる。

砂州の道を進むと、ハンティントン・ハーバーのヨットクラブに着いた。「アイム、マリオ!」と名乗るひげの男性が、がっちり握手で迎えてくれる。強風の日だった。彼が操縦するアレクサンドリア号で大洋ではなく、ハーバー内をクルーズする。

豪邸エリアの水路を行くハンティントン・ハーバーのプライベート船(撮影・金子真仁)
豪邸エリアの水路を行くハンティントン・ハーバーのプライベート船(撮影・金子真仁)

船尾にある星条旗が風でなびく。それだけでかっこいい。幅100メートル前後の水路を進む。両サイドには高級邸宅が並び、家の前には豪華な船が停泊する。

「あれ、1000万円くらいするんですかね?」

「何言ってるの!? 億だよ、億!」

歴戦の旅行ライターの皆さまからすかさず突っ込まれる。大谷の10年1000億円は想像さえできないけれど、目の前に「億」の資産が並ぶことで急に現実感がわいてくる。東京ディズニーシーのアトラクションみたいだけれど、紛れもない現実世界。その真ん中を異国庶民の自分が船で突っ切る。ちょっと気持ちいい。

船内にパンフレットがあった。クルーズ船で海上散骨、とある。でかいなぁ、アメリカ。宿泊はパセアホテル。チェックイン時に白ワインが配られ、宿泊客がロビーでミニパーティー。すごいなぁ、カリフォルニア。8階の部屋からは遠くにアーバインの街が見えた。西武高橋光成投手(27)らが昨冬、家を借りて過ごした街。空が広い。彼がメジャーや米国での生活に憧れるのも分かる。

ゆっくり眠って朝が来た。午前7時、アーバインの方角が明るむ。太陽が全て顔を出すと奇跡が起きた。大地がオレンジ色に染まる。心震わす、別格の朝日。カリフォルニアの1日は、こんな絶景から始まるのか。広いビーチを後にし、日の出の方角へ向かう。【金子真仁】(つづく)