阪神福留孝介外野手(38)が、執念打を放った。8回。1点を勝ち越し、なおも2死三塁の好機で体勢を崩されながら、一塁線を破る適時二塁打。前日11日に右手中指を負傷したというが、戦いの場で弱みをみせないベテランが、価値ある勝利をたぐり寄せた。

 “鉄の意志”を乗せた打球が一塁線を破った。8回、1点を勝ち越して、なお2死三塁。福留は左腕バルデスの外角変化球に食らいついた。最後は右手1本でボールを運んだ。痛めている中指に最も負担がかかる一打に鬼の形相で二塁へ。勝負を決める3点目。安堵(あんど)の瞬間に“麻酔”代わりのアドレナリンが切れたのか、思わず、顔をしかめて右手を振った。

 福留 その前の打席で、ランディに勝ちをつけてやれなかったんでね…。もっと強い気持ちを持ってやらないと。野手として申し訳ない。中4日であれだけ頑張っているのに、何もできてあげていない。

 勝利の後、福留は右手をポケットに隠したまま報道陣の前に現れた。口をついたのは6回1死二、三塁で見逃し三振に倒れた場面。微妙なコースをストライクと判定されると何かをかみ殺すような表現でベンチへ。絶好機で勝ち越せず、先発メッセンジャーに勝ち星をつけられなかった。先頭に立って戦っている仲間への申し訳なさ、自分への悔しさ…。すべてを次の打席にぶつけた。「(ボールに)反応した」。無意識に右手に負荷がかかる形になったが、その瞬間、負傷のことなど消えていた。

 万全でないのは明らかだった。試合前、外野で行ういつものキャッチボールはほんの数球。フリー打撃にも姿を見せなかった。本人は決して口にしないが前日の最終打席で空振りした際、右手中指を痛めたという。それでも3番打者としてグラウンドに立った。打席では心なしか、右手の中指は浮かせ加減に見えた。決して弱みを見せたがらない男が思わず顔をしかめるシーンもあった。本人にしかわからない痛みの程。それでも、決定的な仕事をしてみせた。

 和田監督 技術のある選手なんで。たとえ何かあっても試合に出れば、そんなこと言っていられないというものを見せてくれたね。

 スタメンに名前を書き込んだ指揮官もそのプロ根性を称賛した。

 福留 試合に出ている以上は痛い、かゆいは言ってられないんで。

 取材が終わり、愛車に乗り込んだ福留は右手でいつものようにハンドルを握った。弱みは見せない。最後の最後までプロフェッショナルだった。【鈴木忠平】