待ちわびた瞬間でも冷静だった。ダイヤモンドを回り終え、三塁ベンチ前に到着。阪神坂本誠志郎捕手(27)は小野寺にちょこんと首を突き出した。少しだけ目尻を緩めた後、すぐさま表情を引き締め直した。

「投手が誰であろうと関係なく、この打席で爪痕を残そうと。いつも出ているわけじゃないので」

今季36試合目の出番。ため込んだ熱い感情を冷静に体現した。1点を追う2回1死一、三塁、菅野から三遊間を抜く同点打。再び1点を追う4回2死、今度は2ボール2ストライクから149キロを左翼席に運んだ。今季1号は値千金の同点ソロ。自ら手作りした「虎メダル」を初めて首にぶらさげ、「まさか自分がかけるとは…」とようやく試合後に照れ笑いした。

2年近く前、一気に注目を集めた時期があった。あるメディアのインタビューで、ダルビッシュ(現パドレス)から捕球技術「フレーミング」を高評価された20年1月。坂本は浮かれることなく、捕手のあるべき姿を再確認していた。

「自分の名前が出て驚いたし、もちろんうれしかった。でもそれ以上に、捕手は態度に出さないことが大事という部分に、すごく共感させてもらいました」

世界屈指の右腕はインタビュー内で「捕手に求める2箇条」として、フレーミングとともに「何があっても態度に出さないこと」をあげていた。

「捕手はみんなが笑っている時も暗くなっている時も1人、冷静でいないといけないんです」

この日も信念を貫いた。先制点を許しても、西勇が緊急降板しても、今季1号を放った後も落ち着いてゲームメーク。負けられない一戦を引き分けに持ち込み、前を向いた。

「チームみんなで1個の勝ち、1個のアウト、1点を取りに行く。残り9試合、その積み重ねでいい方向に向かっていくと思う」

ここ4試合のうち、先発マスクをかぶった3試合は2勝1分け。仕事人の意地もまた、虎をV戦線に踏みとどまらせる底力の一端を担っている。【佐井陽介】