阪神岡田彰布監督(64)はどんな野球で虎を勝たせるのか。タイガースOBの日刊スポーツ評論家陣が人柄や思い出も交えてエールを送る第5回は、岩田稔氏(38)です。1型糖尿病を抱えながら岡田監督のもとで先発ローテ投手に成長した元侍ジャパン左腕が、第2次岡田政権に願うことは…。【聞き手=佐井陽介】

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岡田監督は選手に対して、「当たり前のことを当たり前にしてくれたらいい」という考え方だったように思います。

僕の場合は先発投手だったので、フィールディングやけん制、クイックといった部分にも「当たり前」のレベルを求められました。それは言い換えれば、当たり前の準備ができていない選手には厳しかったということ。先発投手が犠打に失敗したり、救援投手が先頭打者にあっさり四球を与えた時には、よくコーチが叱られていました。

自分もよくミスをしましたが、監督に直接怒られた記憶はありません。何か準備不足があった時、岡田監督は選手ではなくコーチを叱責(しっせき)します。それを選手個々に感じ取らせて、自発的に発奮させていたイメージです。チームを優勝に導くような監督のレベルになれば、コーチ陣の育成さえも頭の中にあるのかもしれません。

個人的には、決してやりづらい監督ではありませんでした。僕にとっては、1型糖尿病患者でもある自分を大学・社会人ドラフト希望枠で入団させてくれた監督。プロ3年目の08年に先発ローテ投手として見いだしてくれた監督でもあります。普段から多くの言葉をかけるタイプではありませんでしたが、随所随所で間接的に期待値を教えてくれていたことを、今ではよく理解しています。

たとえば07年秋。まだプロ未勝利だった僕のことを「来年2ケタ勝てるよ」と宣伝してくれたことがありました。それを報道で知った僕がどれだけ勇気づけられたことか…。実際に08年春のオープン戦では初戦先発も任せてくれて、より一層気合が入ったことをよく覚えています。

この08年、僕は岡田監督第1次政権の最終戦となったCSファーストステージ第3戦にも先発しています。中日吉見と投げ合って8回を1安打無失点。退任が決まっていた監督への感謝が強かったから、16年間の現役生活でも上位に入る投球内容を披露できたのだと思っています。

今振り返れば、岡田監督は「勝ち方を知っている監督」でした。代打や代走、守備固めの人選とタイミングにしても、プレーヤー目線で「えっ、この場面でこの選手?」と驚くことが本当に少なかった印象です。来年も適材適所の選手起用で1つ1つ勝ちを拾っていってくれるはずです。

タイガースは05年以来、もう17年間も優勝から遠ざかっています。きっと阪神ファンの中には、なかなか勝ちきれないチームにモヤモヤした感情がある方も多いはずです。岡田監督にはとにかく勝ちにこだわる姿勢を貫いてほしい。自分は1度も優勝を経験できないまま引退してしまっただけに、現役選手たちに頂点に立つ喜びを教えてあげてほしいと、切に願います。

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