阪神嶌村聡球団本部長(56)が日刊スポーツのインタビューで、野球振興に懸ける思いを語った。球団は今季からOBの岡崎太一氏(40)を日本海L・石川の監督に派遣するなど、独立リーグ球団との連携を加速させている。後編では、25年2月で創設90周年を迎える虎の使命に迫った。【取材・構成=佐井陽介、磯綾乃】

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阪神は今オフ、立て続けに独立リーグ球団との連携を実現させた。まずは昨年11月、岡崎太一プロスカウトを24年から日本海L・石川の監督に派遣すると発表。12月22日には四国IL・徳島とコラボする形で野球教室を共同開催した。

野球教室には昨秋ドラフト2位指名した徳島出身の椎葉剛だけにとどまらず、若手のホープ井上広大、栄枝裕貴、タイガースアカデミーの白仁田寛和コーチも徳島の練習場に駆けつけさせる熱の入れよう。ではなぜ、阪神は貴重な人材を送り出し、時間と労力を割いてまで現地で野球教室を開催するのか。嶌村球団本部長はその理由を「現場の生の声」だと明かす。

「うちは球団本部に独立リーグの担当チームを新たに置きました。このチームが各球団を視察した際に何を望まれるかをヒアリングすると、指導者派遣や試合の定期的開催という声が結構、届くわけです。これは現地に行かなかったら分からないことでしょうね」

阪神はもともと独立リーグ球団と連携が深い。16年に藤井彰人(現広島ヘッドコーチ)を当時のBCリーグ・福井にコーチ派遣。2軍はコロナ禍以前から当時ルートインBCリーグ所属の富山、石川(ともに現在は日本海L所属)と現地で試合を行っている。2軍は昨季も独立リーグ勢と計10試合を戦い、6月27日は石川(金沢)、同28日には富山(高岡)でビジターゲームにも遠征している。

「去年は平日にもかかわらず、石川さんとの試合で約2600人、富山さんとの試合で約1200人の観客が入ったと聞いています。うちからも担当者を出張させてファンサービスを展開したり、そういう努力が大事だと思います」

北陸遠征には筒井和也スカウトも同行し、相手球団が配信するYouTube中継に解説者としてボランティア出演。地元の視聴者から好評を得たそうだ。

昨年12月の徳島野球教室にしても、参加者から届いたアンケートには「非常に良かった」「来年もやってほしい」と前向きな言葉ばかりが書き込まれていた。嶌村本部長は「第1歩としては良かった」と納得し、徳島とはアカデミーに関する人材の連携も視野に入れている。

「そうすれば、野球に興味を持ってくれる人が石川、富山、徳島でもっと増えるかもしれないので。うちには石井(四国IL・高知出身)とか湯浅(富山出身)とか独立リーグ出身で活躍してくれている選手がいる。彼らは『何かあれば、ぜひ協力します』と言ってくれている。今の選手たちは野球振興に非常に前向き。今後も球団内の人材次第ですが、独立リーグ球団への指導者派遣も積極的に行っていきたいと思います」

野球の裾野を全国各地で広げて、1人でも多く競技者を増やすために-。今後、阪神は独立リーグ球団との連携をさらに深めていくことになりそうだ。嶌村本部長は「球団本部長としてはもちろん『チームの勝利』が第一義的にある」と前置きした上で、野球振興に取り組む重要性を力説する。

「次の100年に向けた構想が必要だと思います。来年は阪神が90周年。我々には伝統球団としての使命があると思うんです。甲子園球場をつくって、タイガースをつくって、90年近く先輩方が努力してきて今がある。今度は我々が次の世代のために地道な努力をしていかないといけない」

ファーム拡大構想によって今季からオイシックス(新潟)がイースタン、くふうハヤテ(静岡)がウエスタンに新加入する。これまでイースタン7、ウエスタン5だったチーム数はそれぞれ8、6に増えた。これで両リーグともに日々1チームは試合ができないという事態から抜け出せるが、阪神はそれでもあえて空き日を作るべきだと主張する。3軍がないタイガースのファームが独立リーグ球団やアマチュアチームとも試合を組むために。

「2層目の静岡、新潟球団はそれぞれの地域でかなり努力されており、12球団のファームが試合をすることで盛り上がると考えていますが、3層目の独立リーグさんとの試合をなくすことは全く考えていません。今年も石川、富山球団とはビジターでの遠征試合を継続しますし、新たに徳島球団ともビジター試合を開催予定です。野球振興は1年で目に見えて成果が出るという話ではない。それでも1歩1歩積み重ねて、長い目でやっていかないといけない。野球ほど社会に根付いているスポーツはなかなかない。もっともっと広めていきたいし、絶対にいけると思っています」

嶌村本部長はそう言葉に力を込めた。(終わり)

◆嶌村聡(しまむら・さとし)1967年(昭42)9月3日生まれ、大阪府出身。関学大では野球部に所属し、91年阪神電気鉄道に入社。94年から阪神タイガースに出向し、広報部に配属。99年に野村克也監督の監督付広報に就任。02年からは編成部でスカウトディレクターを務めた。06年に野村氏が楽天監督に就任すると退団し、4年間監督付広報を務めた。10年に阪神に復帰し、編成部次長などを歴任。21年4月から球団本部長を務める。

◆昨季の阪神2軍VS 3層目 2月から10月にかけて球団独自に計16試合、毎月1試合を行った。日本独立リーグ野球機構(IPBL)所属では四国ILの香川と対戦(徳島戦は雨で中止)、日本海Lの石川はチーム別最多の3度、富山とも2度戦った。IPBLに属さない、さわかみ関西独立リーグ選抜やベイサイドリーグ選抜とも試合を実施。三菱重工Westや大和高田クラブなどの社会人野球チームのほか、関学大や近大、立命大といった大学とも練習試合を行った。

◆ファーム拡大構想 プロ野球12球団とNPBが22年11月24日、オーナー会議で「野球の裾野を広げるために ~ファーム・リーグの拡大を図るNPBビジョン~」を承認した。既存12球団のフランチャイズ以外の府県を本拠地とする球団を24年からイースタン、ウエスタンで増やす構想。BCリーグ・栃木を運営するエイジェック、BCリーグ・新潟、ハヤテグループによるハヤテ223(静岡)が新規参加希望を申請し、23年11月22日のオーナー会議で新潟とハヤテの新参加が承認された。2球団の正式名称は「オイシックス新潟アルビレックスBC」「くふうハヤテベンチャーズ静岡」となった。

◆日本独立リーグ野球機構(IPBL) 14年9月に四国ILとルートインBCリーグの合同機構として設立。以降、各リーグとチームを会員に迎え、独立リーグの代表団体として窓口となっている。現在の加盟リーグ、チームは5リーグ20球団。四国ILは愛媛、香川、高知、徳島。ルートインBCリーグは福島、群馬、信濃、茨城、栃木、埼玉武蔵、神奈川。九州アジアLは宮崎、火の国、大分、北九州下関。北海道フロンティアLは石狩、美唄、士別。日本海Lは富山、石川。

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