日刊スポーツでは、昨年から始まった不定期企画「虎を深掘り。」を今年も継続し、岡田阪神に迫ります。24年第1回は、今季チーム初勝利を挙げた3月31日の巨人戦(東京ドーム)の試合直後の様子に注目。ウイニングボールは誰が手にしたのか。【取材=阪神取材班】

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24年の虎初勝利のウイニングボールは今、桐敷の自宅にある。過去の記念球とともに、棚に飾っているという。

桐敷 去年は先発で1個、中継ぎで1個。今年の1勝目は監督のものだと思っていたのでびっくりしました。ありがたく飾らせてもらっています。

3月31日の巨人戦。両軍無得点の7回に中継ぎで登板し、1回無失点に抑えた。直後の攻撃で決勝点を挙げ、自身に白星が転がり込んできた。チームの今季1勝目。ウイニングボールは岡田監督の手に渡るのかと思いきや、3年目左腕のもとにたどり着いた。だから24歳は驚いた。

実は東京ドームでは、このウイニングボールが複数人の手を渡り歩いていた。試合は9回裏2死、巨人門脇が中飛を放ちゲームセット。ボールをつかんだ中堅近本が、まずは試合を締めた守護神岩崎に渡す。

岩崎 チカ(近本)からもらったけど、チカは誰に渡すか分かっていなかったですね。その時点では僕も、誰に渡すんやろ? と思っていました。桐敷かな? と思いましたが、梅野と「監督は?」という話にもなりました。最後、どうなったかは知らないな…。

岩崎は三塁側ベンチ前でのハイタッチの列に加わる直前、捕手梅野にボールを預けた。「どうしよう?」。そんなひと言を添え、女房役にバトンタッチした。

梅野 ザキ(岩崎)から言われて、「最初の試合だから監督だよな」となったんです。

前川、ノイジー、小野寺、熊谷、木浪、坂本。そして桐敷とハイタッチするタイミングで「監督に渡しておくね」と後輩左腕に了解を得た。「はい、お願いします」。桐敷もそれが当然とばかりに、うなずいた。

梅野が岡田監督に右手を差し出し、ボールを渡す。指揮官は、思わず笑顔になった。俺にくれるんか-。そう言わんばかりの、まるで予想していなかったようなリアクションだ。

ただ、そのままポケットに…とはならなかった。隣にいた平田1軍ヘッドコーチが声をかけられる。

平田ヘッド 監督に梅野が渡したんだよ。そしたら監督が「俺はええよ」って。それじゃ勝ち投手に、という流れで、桐敷にね。

桐敷! ハイタッチを終えると、平田ヘッドが呼んだ。背番号47は驚きつつもボールを受け取った。岡田監督も、その様子を見ていた。満面の笑みの左腕を見て、指揮官もニヤリと笑っていた。

昨季はレギュラーシーズン85勝。強くなり勝ちに慣れたナインは、まず岡田監督に、とアンテナを働かせた。経験豊富な岩崎、梅野が冷静にアクションを起こし、指揮官は“らしく”断りを入れ、それが若い桐敷に渡った。

昨年、38年ぶりの日本一のウイニングボールは、ノイジーから岡田監督に渡された。「2023年11月5日」と日本一記念日の日付を書き込み、指揮官は「サインも入れて飾りましたけど」と明かしている。

あれから5カ月。球団史上初のリーグ連覇を狙う1年の、はじまりの勝利。その裏では、目先の1勝よりも、その先を見続ける指揮官ならではのストーリーが生まれていた。

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