「セーラー服と機関銃-卒業-」(3月公開)は、35年前のヒット作「セーラー服と機関銃」の後日談という設定でストーリーが進行する。

 赤川次郎氏の原作ベストセラー小説は、81年の映画化以降、82年に原田知世主演で、06年には長沢まさみ主演でドラマ化されているが、薬師丸ひろ子(51)主演のオリジナル版映画を超えるものは無い、と思う。「-卒業-」はその第1作に迫る仕上がりになっている。

 「-卒業-」の前田弘二監督(37)は「相米慎二監督(享年53)のオリジナル版が大好きで、とにかく星泉(ヒロイン)が輝くことだけを念頭に置いて撮りました」と明言し、随所にリスペクトの念がのぞく。

 前田監督のコメント通り、オリジナル版はひたすらヒロインにスポットを当て、当時17歳の薬師丸の「輝き」を映し出した。前作「翔んだカップル」に続く相米演出にもまれ、後日、薬師丸自身「演じることの厳しさ、怖さは相米監督から教わった」と語っている。女優開眼の一作でもあったのだ。

 「-卒業-」には相米版に重なるところが少なくない。前田監督が、ヒロインで「天使すぎるアイドル」と言われる橋本環奈(17)の魅力を存分に引き出している。

 平凡な女子高生がひょんなことから弱小ヤクザの「組長」に就任するというのがこの物語の出発点だが、その「目高組」での女子高生組長と組員のミスマッチながらも、ほのぼのする雰囲気はそのまま受け継がれている。今回ライバル組織の若頭補佐を演じた長谷川博巳(38)との危うい関係は、相米版で言えば薬師丸と渡瀬恒彦(71)との間に醸し出された雰囲気に重なる。演じる2人の約20歳という年齢差も同じだ。何より徹底した「長回し」がいや応なく橋本の「生身」を映し出す。

 前田版の撮影現場は残念ながら取材する機会が無かったのだが、相米版の撮影時は、私自身20代の駆け出し記者だったこともあり、しばしば現場にお邪魔した。

 薬師丸は当時、都立八潮高校の2年生で撮影は夏休み期間、主に新宿周辺で行われた。忘れられないのは、深夜、某神社裏で行われた超長回しの撮影だ。

 カメラは境内を歩く薬師丸を追い、やがては彼女とともに走り、大通りに飛び出して車を追い、さらに走る-。少なくとも3、4カットに割りたいシーンだが、これを相米監督は途切れない1カットで撮った。

 最初はレールに乗せたカメラで滑らかに撮るのだが、それを撮りながら外してリアカーの載せ、移動しながら撮り続ける。さらに大通りに出ると待ち構えた軽トラに乗せて、さらに走りながら撮り続けるのである。5~7分くらいのシーンだと思うのだが、大勢のスタッフがカメラの後ろで数百メートルにわたって動くさまは壮観だった。

 度重なるリハーサル、相米監督のきめ細かな指示はあったものの、「スタート!」の声を待つ薬師丸の表情は緊張で痛々しいほど硬くなっていた。「底力」が引き出される瞬間でもあった。

 出来上がった映像は生の舞台のように途切れない演技を映し出し、薬師丸の息づかいがリアルに伝わった。いろんな意味で一生懸命の高校2年生の姿にインパクトがあった。

 「-卒業-」にも、これに似た長回しが随所に織り込まれ、橋本の「生身」が切り取られている。

 相米版では機関銃を撃つシーンでビンのかけらが薬師丸のほおに当たって出血するアクシデントがあり、そのまま映画に使われている。「カイカーン!」のセリフが重ねられる象徴的な場面だ。アイドルの顔に傷を負わせるなど、今では考えられないが、当時はプロデューサーが所属事務所にわびを入れて一件落着となっている。

 そんなアクシデントこそ無かったものの、今回の銃撃戦はオリジナル版を上回るくらいすさまじい。橋本も硝煙とほこりの中で大奮闘している。

 来生たかお作曲の主題歌もそのまま使われている。歌うのも同様に主演女優。橋本の声は薬師丸ほど澄んではいないが、ややビブラートが掛かり、記憶に残る声だ。

 タイトルのイメージもあって「汚れのない声」は、この作品の重要な要素なのだと、改めて思った。【相原斎】