平穏に幕を閉じた今年のアカデミー賞授賞式で、妙な注目を集めてしまったのがジェニファー・ローレンス(27)だった。

 ドレスの裾をたくし上げ、大股でイスの背もたれをまたぐ姿が中継されてしまったのだ。ワイングラス片手の彼女は、スティーヴン・スピルバーグ監督やメリル・ストリープら「重鎮」とも同年代の友人のように談笑。品格や態度を疑う声でネットは炎上した。

 今年はノミネート外とあって、リラックスもしていたのだろう。非難の声も分からないではないが、この危うさは嫌いじゃない。松葉づえ姿のジョディ・フォスターを支えて主演女優賞のプレゼンターをしっかりと務めたのだから文句はないだろう、とも思う。

 そんなある意味開けっぴろげな魅力に満ちているのが公開中の「レッド・スパロー」(フランシス・ローレンス監督)だ。

 大けがで、名門バレエ団のトップ・ダンサーの道を絶たれたヒロインが、やむなくスパイとなり、過酷な世界を生き抜く物語。知力と魅力を武器にCIAやロシア情報庁をも出し抜いていく。

 バレエのしなやかさや、拷問に耐えるタフな部分では若さが光り、妖艶なハニートラップのシーンでは、芸歴10年、21歳でアカデミー主演女優賞の貫禄がものをいう。バレエ・ダンサーにしては、ほんの少しだけ肉付きのいいヒップラインも愛嬌(あいきょう)である。

 元CIAのジェイソン・マシューズの小説が原作。アクションや拷問シーンは痛いほどリアルだ。ヌードシーンも厭わず、格闘シーンにはキレがあり、メークや表情もキレイキレイでは済まさない。文字どおりの体当たりに改めて唸る。

 前作「マザー!」は「衝撃的すぎる」内容から米国で賛否を呼び、日本公開は中止となった。ローレンスの主演作が日本に来るのは「パッセンジャー」以来1年ぶりとなる。

 交際が伝えられたダーレン・アロノフスキー監督(49)とタッグを組んだ「マザー!」は批評家の評価が賛否真っ二つ。米国公開の観客評価は最低値の「F」だった。彼女自身は「この役は2度と出来ない。好きか、嫌いか、そのどちらか。中間点はない。それでも必ず何かしら感じさせる作品」と正直な気持ちを明かしている。

 率直なもの言いも魅力の1つだ。アロノフスキー監督とはすでに破局が伝えられるが、昨年のベネチア映画祭では「ずっと前から好き。彼の作品も全部好きなの」と真っすぐ思いを明かしていた。どこまでも正直な人なのだ

 今年の授賞式では大胆な行動で注目を集めたが、主演女優賞となった5年前の授賞式では前代未聞の転倒事件を起こしている。オスカー像を受け取るためにステージへの階段を上がっていた彼女が突然ばたり。すぐに立ち上がったものの、会場からは緊張で息をのむ音が聞こえるようだった。

 当時の舞台美術の担当者は「ぎょっとしたよ。誰かが何かをこぼしたと思ったけど、彼女が自分のドレスを踏んでしまったようだ。無事で良かった」とコメントしている。

 「重鎮」との「談笑」を生意気とやゆされる彼女も5年前の初オスカーの舞台では人一倍緊張していたのだ。昔も今もいろんな意味で危ういところが、そのままローレンスの魅力なのだと思う。【相原斎】

「レッド・スパロー」の1場面 (C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
「レッド・スパロー」の1場面 (C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation