新聞ではあまり取り上げられないのですが、ワイドショーで節目ごとに報道されている日本舞踊の最大流派「花柳流」のお家騒動にかかわる裁判に一応の決着がつきました。

 日本舞踊の流派は、日本舞踊協会に加盟しているだけで120近くあります。その中でも花柳流は2万人の門弟を持つ大流派ですが、頂点に立つ家元の座をめぐって、訴訟騒動があったのです。発端は3代目家元だった花柳寿輔さんが07年に亡くなり、その後、3代目の後見人だった5代目花柳芳次郎さんが4代目寿輔(84)を襲名したことです。その襲名に異議を申し立てたのが3代目の親戚にあたる花柳貴彦さん(40)でした。3代目の後見人ともなった大御所の花柳寿楽さんを祖父に持つ貴彦さんによると、02年に3代目から次期家元継承の申し出を受け、当時勤務していた大手建設会社を退社。3代目のもとで帝王教育を受け、08年に4代目襲名の予定だったというものでした。

 しかし、3代目からの家元継承の約束もはっきりとした文書が存在しないこともあって、その主張は受け入れられませんでした。4代目寿輔体制が確立し、貴彦さんは除名処分を受けました。そのため、貴彦さんは除名処分の無効を求めた訴訟を起こし、大物弁護士が担当しました。その甲斐もあって、東京地裁、控訴審でも「処分無効」の判決が出て、先日、最高裁でも貴彦さん側の主張が認められました。しかし、裁判と並行して、4代目は自らは2代目花柳寿応となり、孫の6代目花柳芳次郎さん(24)に5代目寿輔を襲名させ、昨年12月にお披露目も終えています。

 すでに既成事実を作り出しているわけで、裁判では勝って、除名処分が無効となっても、貴彦さんの前途は多難です。祖父は大御所の寿楽さんですが、父は青山良彦として俳優の道に進みました。貴彦さん自身も子供の頃は祖父から舞踊の指導を受けましたが、大学入学、会社勤務と舞踊から離れた時期も長かったハンディもあります。一方、5代目寿輔は2歳で初舞台を踏み、貴彦さんと同じ早大に通いながら、舞踊家としても活動してきました。今月は坂東玉三郎が主演する公演「幽玄」に5代目寿輔として出演する予定です。

 舞踊協会加盟の流派が120近くありますが、多くはもともと在籍した流派から独立して新たな流派を作り、その数が増えてきた経緯があります。花柳流の初代も5大流派の1つ「西川流」の出身でした。日本舞踊は何かとお金がかかり、大きな利権が絡む世界であるけれど、習う人が激減している現状があります。花柳流がどういう方向に進むにせよ、厳しい現実が待っているのは確かです。【林尚之】