故蜷川幸雄さんの弟子の演出家藤田俊太郎(37)が来年1月、英国で演出家デビューする。大阪の梅田芸術劇場とロンドンのオフ・ウエストエンドで150年以上の歴史を持つチャリングクロス劇場による共同プロジェクトの第1弾として、藤田が英国人キャストでミュージカル「VIOLET」を演出する。

スタッフ、キャストとともに英国人となるが、藤田は「光栄です。今からワクワクした気持ちで待ち受けています。僕にとって演劇が生活、人生のすべてです。今まで自分が体験しなかった可能性が生まれるんじゃないかと期待しています」。「VIOLET」は97年にオフ・ブロードウェーで初演された。1960年代の米国の公民権運動を背景に、1人の女性が長距離バスに乗って、旅をする中で、当時の価値観、宗教、人種を超えて格闘する人々に出会い、心の中が変化する姿を描く。藤田は実際、今年2月に同じ長距離バスで旅をしてきた。「深夜バスに揺られて、周りはいろいろな人種の人がいた。公演では、劇場をバスのように仕立てて、観客も一緒に旅するような演出を考えています」という。

藤田は東京芸大美術学部先端芸術表現科在学中の04年に、蜷川さんが主宰する「ニナガワ・スタジオ」に入った。当初は俳優として参加したが、05年には演出家に転向。演出助手として数多くの蜷川作品にかかわった。16年に演出したミュージカル「ジャージー・ボーイズ」はさまざまな演劇賞を受賞し、高く評価された。今年9月の再演は、すぐにチケットが完売となった。イケメンで、絵本ロックバンド「虹艶(にじいろ)Bunny」でも活動している。

蜷川さんは英国をはじめ、世界各国で演出作品を上演してきた。藤田も「師匠としている蜷川さんが、あらゆる国で、同じ精神で、同じ作品で回るのを目の当たりにして、それが世界中のお客様に熱狂を持って迎えられる姿を生で体験しているので、自分が作り出す舞台も、たくさんのお客様に届けばいいなと思っています」。

6週間の稽古を経て、来年1月から3カ月間の公演となる。その後、時期は未定だが、日本人キャストでの東京・大阪公演も予定されている。藤田は「演劇人として良い作品を見たいし、作り出したい。演劇が現代を照らし出す鏡であり続けられるのか。国は関係ないし、才能ある方に出会えれば、演劇の可能性は新たな光を発してくれると思っています」。世界中に発信続けた蜷川さんのDNAはしっかりと継承されている。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)