派手さがあるわけでも、斬新さがあるわけでもないけど、「渋み」がじんわりと染み渡ってくる。「ケイコ 目を澄ませて」など気鋭の監督として国内外で評価を受ける三宅唱氏が漫画家、つげ義春さんの旅にまつわる2本の短編を1つの映画にした。
原作の1つ、「海辺の叙景」は前半に劇中劇で登場する。河合優実演じる渚と、髙田万作演じる夏男の淡い恋心が切ない。後半の創作に行き詰まった韓国人の脚本家の李(シム・ウンギョン)が旅先の北国で宿の主人・べん造(堤真一)と出会い、再生する姿は「ほんやら洞のべんさん」を基にしている。2人のやりとりはどこかユーモラスだ。夏と冬の自然描写と、なにげない日常シーンが心地よい。夏の海の青さ、荘厳たる雪景色、木々を揺らす風、野菜を切る音…。切り取り方が群を抜き、場面を巧みに切り替える。その積み重ねが効果的で、本当に旅をしているようだ。
8月にスイスで開かれた世界屈指の伝統をもつロカルノ国際映画祭で、国際コンペティション部門の最高賞を受賞した。河合はこう語る。「見終わった後(映画の)シーンと自分の人生が重なる感覚をかみしめてもらえたら、すごくうれしい」-。【松浦隆司】
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