平成のドラマ枠で、芸能界が今、最も注目しているのは“朝ドラ”だろう。当たり外れがある中、NHK連続テレビ小説の視聴率は常に20%前後をキープ。“朝ドラブーム”を築き上げている。ヒットの秘訣(ひけつ)は何なのか。NHKのドラマ番組部長の藤沢浩一氏(54)に、好調の要因や昭和から平成に入っての変化を聞いた。すると、1961年(昭36)の第1作から今も受け継がれている意外な要因? もあった。

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平成に入り、朝ドラは大きな変更を実施した。10年前期の松下奈緒主演の「ゲゲゲの女房」から放送時間を15分繰り上げ、午前8時開始にした。前2作の平均視聴率は13%台だったが、「ゲゲゲの-」は18・6%と一気に持ち直した。

藤沢氏 当時の議論は分からないが、英断だったと思う。正時にスタートする方が見やすい。8時開始なら学校や会社に行く人も見られる。皆さんのライフスタイルに合ったのは間違いない。民放の番組は8時スタートなので、15分はチャンネルを変えるタイミングじゃなかった。

平成以降はオーディションを行わず、人気女優を起用することも多い。昭和は、ほぼ無名を起用し、NHKが一人前に育てるという文化があった。

藤沢氏 物語の中心が30代だとすれば実績のある人を起用する。オーディションをするか否かは物語の性質による。そういう意味では若い人を育てることにこだわらなくなってきた。物語を選ぶのは基本的に制作統括、演出家、脚本家の3人。額を寄せ合って約半年かけてネタを決める。昔は若い女性を描いてきたが、少しずつそうでもなくなってきた。何を描けば今の時代に受け入れられるかを考えた時、そうなってきた。平成以降、働く女性が増え、結果的に30代、40代の女性の共感を呼ぶ作品が増えてきた。

大きな変化の1つにテーマ曲も挙げられる。昭和の作品は84年(昭59)「ロマンス」以外は、歌詞がなかった。92年後期「ひらり」のDREAMS COME TRUE「晴れたらいいね」から大物アーティストの楽曲を使用するようになった。平成以降は100作目の「なつぞら」までの59作中37作もある。

藤沢氏 歌詞があると幅広い年齢層の人が口ずさみ、作品と一緒に親しんでくれる。朝ドラは朝の忙しい時間帯に何かしながら見ることが多い。そこで歌詞ありの主題歌が流れると視聴者の注意を引くことができる。「あ、始まった」と気付いてもらえる。NHKでは「ひらり」で「これはいいぞ」となったと思う。

一方、昭和から平成まで継承されるユニークな話もある。タイトルに「ん」の文字の付く作品が、100作目の「なつぞら」まで50作もある。平成では59作中30作だ。

藤沢氏 タイトルに「ん」の文字が入っているとヒットにつながると制作現場ではずっと言われて続けてきた。つまり「ん」というのは「運」の「ん」だと。「ん」が入る作品には運が向いてくると先輩から後輩へと語り継がれてきた。

朝ドラの多くは主人公の成長物語だが、取り巻く家族も同時に描く。家族には視聴者と同世代の人間が必ずおり、共感できる。藤沢氏は朝ドラ=ホームドラマも好調の要因に挙げた。【中野由喜】