コミカルに味付けされたスパイ映画「キングスマン」(14年)には、主人公の愛犬としてJBと呼ばれるパグが登場する。

劇中でタロン・エガートンふんする主人公は「最強エージェントのイニシャルから名付けた」と明かす。ジェームズ・ボンド、ジャック・バウアー、ジェイソン・ボーンである。この作品を初めて見た時には、スパイ映画のヒーローがそろいもそろってJBであることに妙な驚きがあったのだが、残されたテレワーク生活中にそれぞれの最強エピソードベスト1を思い出してみることにした。

007映画では、近作「007 スペクター」(15年)冒頭のヘリコプター上の格闘シーンが、シリーズの売りである「危機一髪」をもっとも端的に示していた気がする。実際にメキシコシティの街中でヘリコプターを低空飛行させているように見える極限のリアリティーで、墜落しそうでしない。転落しそうでしない。ジェームズ・ボンド役ダニエル・クレイグの体を張った熱演が記憶に残っている。

「24」では、バイオテロを題材にしたシーズン3(04年~05年放送)に印象的なシーンがあった。生物兵器の奪還作戦中に不覚にもウイルス感染してしまったジャック・バウワーは、そのまま銃撃戦に巻き込まれる。解毒剤はなく、残された命は数時間。涙ぐんだ同僚が銃弾をかいくぐりながら「ジャック…」と声を掛ける。

「大丈夫だ。受け入れている」

余命数時間となりながら、テロ鎮圧に冷静に行動するジャック。キーファー・サザーランドのこのセリフは、シリーズを貫く「自己犠牲」のテーマを極めたものとして胸に刻んでいる。もちろんジャックはこの後、奇跡的に一命を取り留める。

3人のJBの中では一番のお気に入りキャラクター、ジェイソン・ボーンについては、最近「アイデンティティー」(02年)「スプレマシー」(04年)「アルティメイタム」(07年)の3部作をWOWOWで繰り返し放送していたので、再チェックしてみることにした。

3シリーズの中では、もっともリアルにこだわっているので、格闘シーンもカーチェイスもすさまじいのだが、他の2シリーズのようにはみ出るところが少ない。ベスト1というのがけっこう難しい。が、逆に一見地味なところにそれがあった。

「スプレマシー」の中で、ベルリンの米国大使館に捕らわれたボーンは、取調室でCIAの調査官を一瞬で気絶させ、彼と自分の携帯のSIMカードをこれまた一瞬ですり替える。脱出したボーンは、これによってCIA側の本部と現場のやりとりを盗聴することができたのだ。大使館に捕らわれたのも意図的な行動だったことが分かってくる。

けっして派手なシーンではないが、ポール・グリーングラス監督のきめ細かい描写、その手さばきを徹底的に訓練したであろうボーン役のマット・デイモンの早業には感服だ。

巣ごもり生活も徐々に解消の流れだが、スパイ映画好きには、それぞれの「JB伝説」を振り返るいい機会かもしれない。【相原斎】