メガネにおかっぱ頭、おそろいのピンクのドレスで清らかな声で歌い上げるお笑いコンビ、阿佐ヶ谷姉妹。アラフィフの2人がたわいのない日常を披露して人気を広げている。飾らず、背伸びせず。ありのままの姿でお笑いの世界に飛び込んだ渡辺江里子(49)と木村美穂(48)の歩んできた道、これからの夢を聞いた。【取材・小谷野俊哉、山内崇章】

手をつなぎスキップするお笑いコンビの「阿佐ヶ谷姉妹」。右は姉の渡辺江里子、左は妹の木村美穂(撮影・江口和貴)
手をつなぎスキップするお笑いコンビの「阿佐ヶ谷姉妹」。右は姉の渡辺江里子、左は妹の木村美穂(撮影・江口和貴)

★連ドラ化「腰抜けたわね」

文化放送「ゴールデンラジオ」の月曜レギュラーに起用されて、3月で丸2年になる。メインパーソナリティー大竹まこと(72)を相手に、姉の江里子と妹の美穂が“のほほ~ん”とした日常を牧歌的な語りで言葉を空気に溶け込ませる。

江里子 ちょうど、コロナ禍が始まった真っただ中にレギュラーが決まったのね。そういう意味では、エンタメ界、芸人さんたちも『お仕事がなくなっちゃった、どうしよう』って言ってた中で「ゴールデン」さんで拾っていただいた感じはありますね。

美穂 ちょうどレギュラーにさせていただいて。


大竹は所属事務所「ASH&Dコーポレーション」の先輩。優しく、的確なアドバイスをくれる。

美穂 事務所に入ってからは、もうずっと優しい。

江里子 もう10年くらい、優しいですよ。いやらしい目線ですか? 私たちにはないんですよね。

美穂 他の女性の方たちにはあると思います。私たちにはギラつくような目線はなくて町内会長と婦人会みたいな関係ですよね。

江里子 私たちの地味な話を広げてくれる。なんてことない話の方がお前たちは面白いと。お前たちは飾ったりしないで、阿佐ケ谷の谷を、地をはって生活しているのが面白いって。


柄本明(73)が座長を務める劇団東京乾電池の研究所に通う同僚だった。役者修業で将来の夢を描き始めていた2人は、それぞれの立ち姿に運命を感じた。

江里子 似たような顔がいるな~って、メガネでおかっぱ。

美穂 髪形もこんな感じで。22、23歳の時かな。

江里子 コントもお芝居も縦横無尽、自由に演じられる面白い俳優さんたちがそろっていました。柄本さん、ベンガルさん、高田純次さん、イッセー尾形さんも関わっていた。ガチガチの演劇じゃなくお笑い要素を感じられたらなと。

美穂 そうね、なんか(演劇もお笑いも)どっちもやってそうな感じだった。


▼▼後編 阿佐ヶ谷姉妹はうなぎ屋さんで生まれた▼▼

★オバさん合唱団全国ツアー!?

1年後、東京乾電池の劇団員に昇格できず、アルバイトをしながら養成所に通う生活が続いた。江里子はコールセンターで働き、美穂はパソコン入力の事務、おそば屋さんなどで働いた。将来が定まらない状況で、人生のターニングポイントになったのはなじみの店主の提案だった。

江里子 阿佐ケ谷のうなぎ屋さんで「そんなに似てるのなら阿佐ヶ谷姉妹とかの名前でなんかやれば」って名前を先にいただいた。

美穂 ネタを考えるということが分からなかったので、お姉さんが好きだった由紀さおりさんと安田祥子さんが歌っている映像を見てやってみようってね。


07年に「阿佐ヶ谷姉妹」を結成する。おそろいのピンクのドレスを身にまとった2人の挑戦が始まった。

江里子 最初にお話をいただいたのがお笑いライブ。由紀さん安田さんのコンサートをオマージュというか、1~2分ちょっとしゃべって、あとの6分くらいは「トルコ行進曲」をフルバージョン歌う。お客様がポカ~ンとされていましたね。持ち時間4分のところを、8分もやって。


翌08年にフジテレビ系「とんねるずのみなさんのおかげでした」の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に出場して準優勝。18年に女芸人日本一決定戦「THE W」で、歌ネタを捨ててコントで優勝した。

ネット連載から18年に出版されたエッセー「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」が、昨年NHKで連続ドラマ化された。江里子を木村多江(50)、美穂を安藤玉恵(45)が演じた。

江里子 腰が抜けたわね。コントでだって思いつかない。あんなおきれいな役者さんに、私たちみたいな者を演じてもらうなんて。


東京23区の西部、杉並区阿佐ケ谷の6畳一間に、18年まで7年間同居した。江里子の部屋に美穂が越して来た。現在は隣同士で別々の部屋に住んでいる。10年前に現在の事務所入りしてからは、副業なしでやっていけるようになった。

江里子 仕事が増えたっていうより、急に入って来るので。芸人のお仕事だけで、まだ食べていけないんだけど、ここらへんで区切って退路を断って頑張ったほうがいいかしらって。ちょうど美穂さんと暮らし始めて2人でほそぼそやっていくなら食べていけるかしらと。家賃も半分の3万2500円ずつですんだ。それでバイトを辞めました。


江里子は今年、美穂は来年50歳になる。人生100年時代の半分、アラフィフとなってブレークした。連日テレビ、ラジオに引っ張りだこ。夢も広がる。

江里子 女優は無理です(笑い)。

美穂 木村多江さんと安藤玉恵さんとか見ちゃうとね。とても、自分じゃできないと思っちゃう。


歌ネタでも高い評価を得て、昨年暮れはNHK「紅白歌合戦」の事前番組にも出演した。本物の紅白出場にも興味が広がる。

美穂 歌を出したことがない。人生1回くらいはとも思うけど、恐れ多い。歌もないうちから言ってますけどね(笑い)。

江里子 すごい野望ね(笑い)。


独身を貫くのか、気になるところ。

江里子 本当にご縁があればと、思っているんですけど。

美穂 私は本当に願望がないんですけど、お姉さんが1つ年上なんで早く行ってもらわないと(笑い)。

江里子 やっぱり2人で、ほうじ茶飲んで、ああだこうだ話しているのが一番楽ちん。ぬるま湯につかっていると、恋愛の火遊びとかやけどはねぇ。オバさん合唱団で全国回るっていうのはちょっと夢ですね。

美穂 似たような顔並べてね(笑い)。


“やる気満々”がひしめく芸能界の中でも、芸風通り自然体を貫く。2人の仲も明るく平穏無事だ。けんか、解散危機を迎えたこともない。

美穂 大げんかしたとかはないわよね。小競り合いとかくらいかな。

江里子 意外と美穂さんの方がしっかりしているの。阿佐ヶ谷姉妹の黒幕は美穂さん。映画も「ゴッドファーザー」とか好きだから、黒幕タイプなのかも。


欲を出さず“オバさん”枠で頑張る。

江里子 オバさん枠でトップを走られているのが柴田理恵さん。人情味あふれているし、お笑いもお芝居もできる。

美穂 憧れの人という感じかしら。

江里子 デビューした時は、ヤングに合わせたネタをやろうとしていたんです。だけど、やっぱり無理があって、自分たちも、見ている方たちもしんどい。オバさんなんだから、オバさんのネタに特化したら、自然体で同世代に応援してもらえました。お若い方にも、うちのおばあちゃん、おかあさんに似ていると。


飾らず、おごらず。インタビューの時間がゆっくりと過ぎていく。ありのままの姿で、平凡な日常を優しい言葉で紡いでいく。2人に引き込まれる理由はそこにあるのかもしれない。


▼大竹まこと(72)

10年くらいのつき合いだけど、変わってないね。まぁ、生活は少し良くなったのかな。姉妹じゃないけど姉妹。言ってみれば“疑似家族”。2人とも結婚してないけど、時代背景もあって女性2人で暮らすケースも増えている。「こんなんでいいのかしら」と思っていたら、阿佐ヶ谷姉妹が出てきて「それでもいいんだ」と。今までの家族の形と違う、そうじゃない形。時代の流れに、あいつら2人がマヨネーズみたいに絞り出されてきたと思ってるけどね。俺の役割は疑似家族のおじいちゃん(笑い)。年齢的には父親か。あいつらも年だからね。


◆阿佐ヶ谷姉妹(あさがやしまい)

劇団東京乾電池研究所で知り合い、07年10月コンビ結成。フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で08年準優勝、16年優勝。18年「THE W」優勝。現在レギュラーは日本テレビ系「ヒルナンデス!」水曜、NHK「Eテレ2355」火曜など。

渡辺江里子(わたなべ・えりこ)1972年(昭47)7月15日、栃木・宇都宮市出身。明大文学部卒。中学・高校の国語の教員免許所持。ツッコミ担当。血液型A。

木村美穂(きむら・みほ)1973年(昭48)11月5日、神奈川・相模原市出身。洗足学園短大卒。血液型A。


◆文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」

2007年(平19)5月7日放送開始。大竹がメインパーソナリティー。パートナーは月曜=阿佐ヶ谷姉妹、火曜=はるな愛、水曜=壇蜜&いとうあさこ、木曜=光浦靖子・小島慶子・大久保佳代子の輪番、金曜=室井佑月。