フットボール金融論 ~レアル・マドリードMBA卒・酒井浩之~

実は大赤字、ユべントスの財務のゆくえは?

この数回はスペインサッカー界を長年にわたって支えてきたと言っても過言ではないレアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリードといったクラブの財政状況を見てまいりました。その中でもレアルは欧州チャンピオンズリーグ(CL)3連覇の立役者でもあるポルトガルのスーパースター、クリスティアーノ・ロナウドの売却を機になかなか立て直すことができておらず、そしてバルセロナもメッシを欠いた試合は落とすなど、好不調の波が大きくなりつつあり、アトレティコは150億円とも言われている大きな投資を行い、いよいよ2強時代から3強時代への変遷を感じさせる今シーズンとなっております。

ユベントスのFWロナウド(ロイター)
ユベントスのFWロナウド(ロイター)

その中でC・ロナウドが活躍の場を移したイタリア・セリエA、ユベントス。その昔プラティニを擁してヨーロッパを制覇し、来日したことも記憶にある方々もいらっしゃるかもしれません。今回はそのユベントスの収支状況をのぞきつつ、C・ロナウドに始まり大きなお金を生みだすことができている裏側に迫りたいと思います。

ユベントス自体は4億3000万ユーロ(約516億円)ほどの売り上げを計上しており、レアルやバルセロナとピッチ上では互角の戦いをすることができる戦力を誇っていますが、ファイナンス面をみると約半分ほどの規模になります。支出(コスト面)を見てみると、5億9000万ユーロ(約7億円)で、マイナス計上されています。しかもこれは昨シーズンだけでなく、この2シーズンにわたってマイナス計上されておりますから、新スタジアムに変わり、C・ロナウドを獲得し、という華やかで一見成功への道をたどっているかに見える裏側では実はお金がないということになります。この要因がどこにあるかを見てみると、インタンジブル・アモチゼイション(無形の減価償却費)がこの2シーズンにわたって1億ユーロ(約120億円)を超えており、この数字が圧迫しているように感じます。フットボール界の財務諸表を見るにあたり、この“無形の減価償却費"が示すものを考えなければなりませんが、これは選手の契約金である場合がほとんどです。過去、レアルが苦しんだのもこの無形の減価償却費、つまり分割払いによる選手の獲得金になります。スペインでは下部組織から上がった選手の契約金はここに含まれないことが多く、このカラクリを見抜くことがポイントになります。

話をユベントスに戻しましょう。ここでポイントになるのが、どのようにしてこのマイナス計上を解消するのかということになりますが、基本的には選手売却によるキャピタル・ゲインをベースに考えます。つまり、5~10億円で取ってきた選手を30~50億円で売った場合の売却益を得るということ。おそらくですが、本来であれば本年度はその清算時期であったことは間違いありません。アレグリ体制でどうしても達成したかったCL制覇。なぜならば、過去数回にわかってリポートしてきましたが、それによって得られる収入は数十億円単位になり、これがあれば一気に解消され、選手を無理に売却する必要はなくなるからです。

しかしながらチームのとった路線は監督交代、という荒療治。現戦力をベースに補強が必要になるというチームの向かいたい方向性とは真逆のベクトルです。この状況を打破するのはまさに過剰戦力の売却、もしくはビッグタイトルの獲得のどちらか。むしろ両方をバランスよく行う必要があります。

とはいえピッチ上は絶対が存在しない世界。どんどん年を取っていく選手たち。そのような中でC・ロナウドの引退説(今夏母国メディアに「引退するのは来年かもしれないし、40歳、41歳まで続けるかもしれないし」と語った)。150億円近く費やし、さらにその選手が引退されてしまうという痛手をどのように解消していくのか、私はピッチ外のユベントスの経営手腕・かじきりがどのようなものになるのか、注目しています。年末から1月の選手移籍市場においてどのような動きを見せるのか、そしてFIFAファイナンシャルフェアプレーを回避するための策をどのように考えるのか、見てみましょう。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)

◆酒井浩之(さかい・ひろゆき)1979年8月24日、愛知県生まれ。幼少時よりサッカーに打ち込み、大学卒業後は広告代理店やスポーツメーカーに勤務。2015年3月にレアル・マドリード大学院スポーツマネジメントMBAコースに日本人として初めて合格。卒業後、レアル・マドリードへ同コースから唯一選出され入社。17年6月退社。現在はスペインと日本を行き来しながらスポーツビジネスのコンサルティングなどを手掛けている。

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