イングランドが走る。ドイツ人のトゥヘル監督のもと、よりプレー強度が高まっている。
天才肌のパーマーやフォーデンといった技巧派選手がメンバーから外れたことは驚きだったが、走れる、戦える選手を選んだまで。チーム全体で前から圧力をかけ、相手をのみ込みにかかる戦術が見て取れる。
今大会のチーム総走行距離はのべ45万5964・26メートルで現時点で8番目。ただ1位のドイツ以下5位のモロッコまでは延長戦を戦っている。それを差し引けば、イングランドがよく走る部類であることが分かる。
中でもボランチのデクラン・ライス(アーセナル)の動きに目を奪われる。走行距離はチーム7番目の3万1053・39メートル(プレー時間277分)。トップはケインの4万3443・8メートル(プレー時間394分)だから1万メートル以上も違う。
ただ1分間に走っている距離はケーンの110・263メートルに対し、ライスは112・106メートルと長い。同じボランチのアンダーソンの115・26メートルに次ぐ数字を誇っている。
この日のコンゴ戦でも後半26分から右サイドバックへ配置転換し、同点ゴールにつながる粘りのクロスを送った。
大事な場面で動くからこそ「よく走る」印象は強まる。ポリバレント性が高く、まさに現代サッカーの申し子だと言える。
現代サッカーは生理機能の高まりに伴い、ゴールを陥れるまでの時間もどんどん短くなっている。判断、技術、動きのスピードが求められ、戦術は大きく変わった。
1970年のメキシコ大会で何本もパスを回しながら優雅に得点を重ねていたブラジルが、56年後に日本を相手にカウンタープレスから決勝点を奪ったのだから。ペレが生きていたらさぞ驚いたことだろう。
少し話はそれたが、その戦術の変化を受けて、選手たちの体型も変化している。イングランドの選手たちを見ても、長身のスラッとした選手が目立っている。
英ウルバーハンプトン大の研究者たちは、過去50年に及ぶイングランド1部リーグ(現在はプレミアリーグ)のデータを公表している。それによると1973~2023年で選手の平均身長は4センチ以上も伸び、約181・5センチになった。
「痩せ型で手足の長い体型に傾倒している」と報告している。ライスは185センチ、75キロ。その言葉に当てはまる選手だと言えよう。
理由として、50年前の冬のピッチはぬかるみ、体力が必要だった。踏ん張り、肉弾戦を挑む。がっちりした筋肉質な選手が多かった。
しかし現在はピッチ環境も良く、攻守に走る戦術が取られる。当たり負けしないバランスのいい筋肉を持ちつつ、走るために軽量化したF1のようなボディーも求められる。
FIFAの計測によると1970年代の選手の走行距離は1試合平均8・7キロだった。それが90年代に11・4キロまで増加した。少し減少した後、今はまた11キロ前後まで回復している。
そして何より過密日程は見逃せない。現在のクラブは年間平均42試合の試合数をこなし、加えて代表戦を行っている。欧州CLで決勝まで進んだライスは、アーセナルで55試合を戦い抜き、代表戦でもここまで12試合。既に67試合もこなしているのだ。
60年ぶりの悲願の世界一へ、イングランドは最後まで走りきれるのか?
走るための最高のエネルギー源と言えば炭水化物。そうオニギリだ。やはりカギは「ライス」が握っている。【佐藤隆志】



