リオデジャネイロ・パラリンピックのトライアスロン代表、秦由加子(37=マーズフラッグ・稲毛インター)が新たなギアを手に入れた。サポートを受けるブリヂストンが義足用の新型ゴムソールを開発。18日に都内で開かれた発表会で提供された。昨年から同社のソールを使用し、これまでの路面グリップ力に加えて要望していた耐久性能向上が実現。20年東京大会へ練習量アップに強い味方となる。5月12日の世界シリーズ横浜大会で実戦投入する。

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 その笑顔が大きな信頼感の証しだった。秦は頬を緩めて言った。「これがあればどんな状況でも走ることができる。安心してレースに臨めます」。発表会で義足に装着された新型ソールを受け取った。すぐさま感触を確かめる。ユニホーム姿になってステップを踏んだ。キュッ、キュッという高い摩擦音に何度もうなずく。隣で見守るブリヂストンの開発リーダー、小平美帆さんも笑顔になった。

 昨年からランパートで使うソールの提供を受けている。最初に求めたのはどんな路面、気象状況でも滑らずに安定して走れるグリップ性能だった。ブリヂストンは新たなゴム素材の開発で答えを出した。納得した秦が今年にかけてリクエストしたのは、グリップを維持したままでの耐久性の向上。20年東京大会へ今年から大幅に練習量を増やしていく中で、義肢装具士の元で丸1日かかるソールの着け替えは大きなストレスになる。

 グリップと耐久性能という背反する課題を両立させるために、タイヤ開発技術が結集された。秦のソールの接地時の圧力、挙動を計測し分析した結果、大型トラックに匹敵する接地圧がかかっていることが判明。踏み込みから蹴り出しまでの圧力分布をコンピューター映像で可視化し、秦の走りの特性に応じた最適なパターン(溝)デザインとゴムの材料配合設計が実現した。使用可能期間はこれまでの倍の約4カ月に伸びたという。

 「私たちの開発はこれで終わりではなく、秦選手の進化を追いかけるように続いていきます」と小平さん。そのサポートに応えるように秦は昨年10月(米国)、今年2月(オーストラリア)と年をまたいでW杯2連勝中だ。「今年の目標は3つの世界選手権シリーズで好成績を残し、グランドファイナルで3位以内に入ることです」。その第1戦が5・12横浜大会。秦は今、2月から3月にかけて1カ月の合宿を行ったタイに再び渡り、新型ソールで走り込んでいる。【小堀泰男】

 

 ◆秦由加子(はた・ゆかこ)1981年(昭56)4月10日、千葉県生まれ。13歳の時に骨肉腫のため右脚を大腿(だいたい)部から切断した。以来スポーツとは無縁だったが、07年に小学校時代に習っていた水泳を再開。12年ロンドン・パラリンピック出場を逃した後、トライアスロンに転向した。16年リオデジャネイロ・パラリンピック6位入賞。クラスはPTS2で現在世界ランキング3位。165センチ、50キロ。

 

 ◆パラトライアスロン スイム750メートル、バイク20キロ、ラン5キロの合計25・75キロで争われる。現在は男女ともPTWC(座位)、PTS2~5(立位)、PTV1(視覚障害)の6クラス(種目)。16年リオデジャネイロ大会から正式競技になり、男女とも3クラスが行われた。20年東京大会では男女とも4クラスが実施されるが、どのクラスが採用されるかは未発表。