15日に行われた2020年東京五輪・パラリンピックのチケット販売に関する有識者会議の報道を見て、いろんなことを考えさせられました。組織委員会のチケット料金の素案は12年ロンドン大会と同程度の最高28万8000円、最低2800円。結局、有識者から「もっと価格の幅を広げるべき」という意見が出て、継続審議になりました。

 開催国にとって入場料収入は重要です。でも“売れるから”や“客席を埋めたい”という発想だけで価格を決めるのは賛成できません。20年大会は多様性と調和をコンセプトにしているわけですから、それを競技会場という箱の中でメッセージとして示す必要があります。そのためにチケットにこそ理念を反映させるべきだと思います。

 高いチケットを購入できる人たちだけではなく、子供も高齢者も障がい者も分け隔てなく楽しめる会場にしてほしい。個人的には五輪もパラリンピックも子供の観戦機会を増やしてほしいと思っています。注目度の低い予選だけではなく、陸上の100メートル決勝など頂点の戦いを見せてあげたい。それがスポーツを次世代につなぐ、最高の体験になるはずです。

 そして、できれば感動を友達同士で分かち合えるように、小学生をクラス単位で招待してほしい。特に車いすの子供がいるクラスは、観戦しやすい車いす席の周りで全員一緒に観戦できるようにする。そうすれば車いすの子供がいるおかげで、みんなが見やすい席で大会を楽しむことができる。校外活動に参加しにくく孤立しがちな車いすの子供が、クラスの主役になれるのです。そのくらいの発想の転換をしてこそ開催の意義があると思っています。公式スポンサーなどの企業も、応援してくれるとありがたいですね。

 一方でパラリンピックのチケット料金設定も気になりました。五輪とどうバランスをとるのか。国際パラリンピック委員会(IPC)には五輪より安い価格で、より幅広い人たちに観戦してもらうという方針がありますが、東京大会でパラの価値を高めることも求めています。最高額が五輪と同額の必要はないと思いますが、安ければ安いほどいいという話でもありません。五輪と差をつけるならばその理由は何か。20年大会はその後のモデルケースになるわけですから、基本理念、残すべきレガシーを熟考しながら議論してほしいと思います。

 

 ◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。46歳。