小さな「問題児」が、大きな仕事をやってのけた。レスリングの男子フリースタイル57キロ級の樋口黎(20=日体大)が、強豪を次々と撃破し決勝に進出。昨年世界王者のキンチェガシビリ(ジョージア)には3-4で惜敗したものの、今大会日本男子2個目の銀メダルを獲得した。豪華コーチ陣の厳しい指導で偏食など私生活面を改善。フリースタイル最軽量級での4大会連続メダル獲得で、日本の伝統を守った。

 金メダルをかけた決勝戦でも、樋口は強かった。相手の消極的姿勢で1点を先取すると、タックルを決めて3-0とリード。高速片足タックルで何度も足をとり、追い詰めた。終盤の失点で追いつかれ、最後は堅守を崩しきれずに金メダルを逃し「悔しい」と言ったが「自分の持てる力は出し切れた」と胸を張った。

 周囲は口をそろえて「子ども」という。20歳は女子を含めチーム最年少だが、年齢だけではない。甘い物が我慢できず、野菜が大嫌いな偏食家なのだ。体重管理ができず、リオ五輪に直結する昨年6月の全日本選抜では計量失格する始末だった。

 今年3月のアジア予選で五輪代表に決まっても、敵は減量だった。「体重さえ落とせれば金メダルを狙える」だけに、私生活改善がコーチ陣の仕事だった。付ききりで指導した08年北京五輪銀の松永コーチは「技術を教える以上に大変」と苦笑いで打ち明けた。

 食事はすべて写真に撮って、栄養士に報告。アドバイスより怒られることが多かった。我慢ができず「自分へのご褒美」と言いながら甘い物をパクリ。嫌いな物は「トマト、ピーマン、グリーンピース…」。いくら注意されても聞き分けのない子どもだった。

 周囲の努力でギリギリで減量に成功。最大の課題を克服して、メダルへの可能性は大きく広がった。「子どもですが、逆にそれがいいかも。大舞台に物おじもせず、伸び伸びとやってくれた」。和田監督は、これまでの苦労を振り返り、ホッとした表情をみせた。

 出場人数が制限された92年大会から初の学生代表、20歳のメダル獲得は84年ロス五輪の赤石光生の19歳に次ぐ若さ。4年後の活躍が期待される。競争が激しい最軽量級で「この階級で一番強いのは中村(倫也=専大)だと思う。でも銀メダルを取ったので、これをステップに東京では金メダルを狙います」。樋口は子どもらしい笑顔で言った。【荻島弘一】