東京パラリンピック陸上の女子マラソン(視覚障害T12)で金メダルを獲得した道下美里(44=三井住友海上)が、レースから一夜明けた6日に会見に臨み、エピソードを交えながら仲間からのサポートに感謝した。7000通を超える応援メッセージを、仲間たちが1つ1つ音訳してくれたという。毎日のようにLINEで届くその“声援”を力に変え、盲目のランナーは42・195キロを先頭で駆け抜けた。

   ◇   ◇   ◇

優勝翌日の会見場で、道下は穏やかな笑みを浮かべながら「ありがとう」の思いを伝えた。

自国開催の東京大会で、多くの声援を受けて走ることを夢見てきた道下。しかしコロナ禍で、大観衆の前での疾走はかなわなかった。すると無念の思いをくんだ仲間が、多くの子どもを含む地元福岡の人たちに声を掛け、7000通を超える応援メッセージを集めてくれた。あふれるほど届いたメッセージ。しかし盲目の道下は、それらを見ることができない。たくさんの励ましを受け取ったことは心からうれしかったが、直接読めないことを寂しそうに伝えると、仲間たちが1つ1つを音声に起こす音訳作業をしてくれたという。

そうして届いた“声”は、心の支えとなった。「コロナ禍で不安はあったし、自分自身の気持ちがなえそうになることもあった」と吐露した上で「応援メッセージを毎日聞きながら、東京大会に向けて思いを高めてきた」と振り返った。

音訳に協力した1人で、練習仲間である大濠公園ブラインドランナーズクラブの江上和彦さん(67)によれば、最初に音訳を提案したのは道下の夫孝幸さんだった。家族や知人ら7人ほどで手分けし、1つ1つの応援メッセージを連日、LINEで道下に届けた。7000人分の音訳が完了したのは大会開幕3日前。道下は毎日のように、それぞれのメッセージに対する感想を伝えた。

そうした応援を力に変え、道下は大舞台で真っ先にゴールに飛び込んだ。「何かできないことがあったとしても、こうすればできるようになると周囲から教えてもらった大会。その後押しが結果につながったと実感できた」。金メダルだけでなく、さまざまな財産を手にした。【奥岡幹浩】