0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦
0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦

この夏は雷雨によるJリーグの試合の中断や中止が例年より多かったように思える。

僕が所属するYS横浜の試合でも雷雨による中断があった。雨が降りそうで降らない天気の中、後半残り5分のタイミングで突然のT字にカミナリが光った。会場は悲鳴と驚きに包まれ、直後にレフェリーの笛が鳴って、選手らは屋内へと待避した。試合の流れがチームに傾いていた時だったので、この中断は勝敗を左右すると思った。しかし、それ以上に選手、ボールボーイ、レフェリー、観客らの安全を考えれば、とても素早い判断だったと思える。

100年に1度と言われるような豪雨が、1年に1回、いや月に1回のペースで来るくらいの気候変動が起きている。僕らスポーツ選手にとっても、ちゃんと考えなければいけない問題だと思う。この環境問題は決して遠い遠い未来の話ではなく、実はすぐそこまで来ている明日の話だと思う。

僕は今年の3月から食事改革に取り組み、植物性タンパク質のみの菜食主義になった。今まではお肉が大好きで、お菓子も食べていた。お酒も飲むし、時にはジャンクフードを口にすることもあった。体調が優れない時もあったが、ストレスをためない方が体のためだと言い聞かせ、体調の変化に耳を傾けるのをおろそかにしていた。そんな生活を一気に変えた。当時はけがをしていて、同時に新型コロナウイルスによる自粛期間に入ったこともあり、その時を変化のタイミングだと考えたことがきっかけだった。

あれからもう7カ月が過ぎた。僕の中で起きた大きな変化は2つ。1つ目はコンディショニングで、走れる量や疲労度などさまざまな点において大きく変わった。そして2つ目は、意識の変化。気がつけばもう7カ月間ほど動物を殺してないことになる。そんな意識からいろいろなことを調べるようになったと同時に、出会う人たちも変わってきた。そして、考え方も大きく変わった。

例えば、スターバックスコーヒーが紙ストローを導入したことに対して、最初は「飲みにくいなあ」と自分都合で考えていたが、なぜ紙ストローにする必要があるのかを考えた。レジ袋の有料化も同じだ。僕は今ではマイエコバッグを持ち歩くまでになった。

もっと違う視点で見ると、僕は年俸120円で、物欲もなくなり、かなり節約した生活を送っている。着ているものもほぼ毎日一緒。デンハムのデニムに、白いTシャツが定番だ。これはお金がないからではなく、デンハムのデニムははやりに流されないデザインと優れた機能性を併せ持っているので、どんな時でも履き続けられる。使っている入浴剤はCLAYDのクレイ。体にも優しく、地球にも優しい成分なので、そのまま流しても問題ない。こうして考えると、環境に対してとてもエコだった。

自分のアクションが環境と直接結びついていることを認識すると、環境問題に対してスポーツ選手ができることはたくさんあるのではないかと考え始めた。サッカー選手はテーピングをよく使う。それから患部を冷やすためによくアイシングをする。その時に使われるのはビニールの袋だ。このテーピングや袋は使ったあとはゴミになっている。これが当たり前になっているJクラブは何チームあるのだろうか。いま一度、地球に目を向ける必要がある。地球は借り物であり、無駄遣いをできる資源はもうない。

調べたところによると、日本の食品の半分以上は世界から輸入したもので、僕らは年間5500万トンの食糧を輸入しながら、1800万トンも捨てているという。食糧の廃棄率では世界一の消費大国アメリカを上回り、廃棄量は世界の食料援助総量470万トン(WFP)をはるかに上回り、3000万人分(途上国の5000万人分)の年間食料に匹敵しているという。日本の食品廃棄の実に半分以上にあたる1000万トンが家庭から捨てられていることもわかっている。

今ある環境は当たり前ではない。そして全てが有限であることを再認識したい。こうして僕らがコロナ禍でもサッカーができているのは、この地球があってこそで、そのために使える資源があるからだ。ならば、もっとそこに目を向けるべきだ。自分の私利私欲だけでサッカーをやるのは、もはや時代遅れだと思う。

僕にはとても尊敬するダンサーがいる。彼女は愛と感謝を常にダンスで表現している。表現ができるアーティストをうらやましく思うこともある。そんな時、ふと言われた言葉がある。「アーティストとは、人の人生を変えられる人のこと」。だから、スポーツ選手もアーティストになれる、と。アーティストとは行動のことなんだ。何をアクションし、そこにどんな背景や思いがあるか。僕はサッカー選手がアーティストになるような立ち居振る舞いが必要な時代に入ってきたと確信している。

僕らスポーツ選手は震災などの災害があった時には、スポーツの力を見せようと団結するが、それを毎日毎回表現していくことが、今の時代に必要不可欠であり、これからのサッカー界に確実に必要になってくるアクションだと思う。ここからさらに環境問題に取り組み、スポーツを通してより多くの人に伝えていきたいと思う。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、グレミオ・マリンガとプロ契約も、けがで帰国。03年に引退も、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年に旧知のシュタルフ監督率いるYS横浜に移籍。開幕戦のガイナーレ鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。175センチ、74キロ。

0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(右端)
0円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(右端)