前回は現役時代「将軍」と呼ばれたミシェル・プラティニが中心となって導入されたファイナンシャルフェアプレー(以下FFP)について述べました。今回はこれが各クラブ、リーグにどのような影響を及ぼしているのかを探っていきたいと思います。

FFPは簡単にいうと「赤字経営禁止」というもので、銀行などによる借金やオーナーのポケットマネーでの高額な移籍金の支払いやクラブの赤字の補てんは認められないというものになります。目的はリーグを公平に運営することで「お金を持っているチームが選手を獲得できてしまうため、マネーゲームによって自然と強くなってしまう」ことを避ける狙いがあります。

ただ、ある日突然「赤字運営禁止」となってしまうと、多くのクラブがこれに当たるということから、直近3年分が対象になるなどグレーな部分があります。判断基準が良い意味であいまいに設定されているルールであり、ここが物議を醸している部分でもあります。今シーズンはルールがより厳しく適用される年で、各チームが来年1月に最終調整的な意味合いで大きな動きを見せることも十分に考えられるという関係者もいます。

多くの選手が売り目的で移籍市場にあふれた場合、購入する側であるクラブは財布のひもを締めることから、選手の価格バブルが崩壊し、スター選手が比較的安価な価格に収まることも十分考えられる、と予測する専門家もいます。


さてこのピッチ外を取り締まる意味合いも若干感じることができるルールでありますが、もろにこの影響を受けてしまったリーグがありました。イタリアのセリエです。

「キングカズ」こと三浦知良選手がアジア人初となる活躍をしたこともあり、比較的我々と距離が近いリーグでした。ですが、このFFPによって、イタリアを代表するクラブで1990年代に黄金期を築いたACミランが失速。政治失脚も重なりベルルスコーニ会長がクラブを手放すことになってしまったのは記憶に新しく、財政難に陥ったクラブはやむなくチアゴ・シウバ、イブラヒモビッチといった高額のスター選手を放出。スポンサー集めの苦労もあり、クラブはいまだに再建のめどが立たず低迷しています。

同時にミラノを代表するもう1つのチーム、インテルを率いていたモラッティ会長もこのFFPの影響を大きく受けた1人でした。モウリーニョ監督に率いられて09-10年シーズンはCLを制し、ヨーロッパ王者に輝きました。しかしFFPに引っかかり、主力選手であったサミュエル・エトーやスナイデルらを次々と放出。結果的にCLだけでなくELにも出場できないほど弱体化し、最終的には身売りというところまでいきました。イタリア・セリエAが世界最強リーグと呼ばれ、世界中のスーパースターが集結していた1990年代が遠い昔のように感じます。

実はこのFFPのおかげで全く想定されていなかった部分の利益が生まれたことも確かでした。それはマーケティング面です。今では当たり前のように実施されておりますが、各チームのプレシーズンにおけるツアーがこれに当たります。今やアメリカ、アジアへのツアーは頻繁に行われ、そしてグローバルに展開されているグッズ販売もこれに含まれる部分になるかと思います。

なんと言っても一番規模が大きいのはテレビ放映権の販売になります。タイ、マレーシアを中心とした東南アジアや、日本を含む中国、韓国などの東アジアに向けたテレビ放映権の販売は、チームのブランディングだけでなく大きな収入源となります。今ではリーガのチームの胸スポンサーに漢字が使用されていることにも慣れつつあるように感じます。


次回以降はこの全く異なる地域からの国際的なスポンサーシップ契約がどのような影響を及ぼしているのかなどを深掘りしていきたいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)