新型コロナウイルスの終息がなんとなく見えてきたような、見えてきていないような状況でひとまずドイツがリーグ戦を再開させました。無観客で行われたルールダービーは何か物足りない感覚で、もう少し我慢しなければならないと言い聞かせているようなところも皆さんあるのではないでしょうか。

そんな中、今回は少し違った見方でクラブを見てみたいと思います。今回の題材は“株価“です。特に株式公開しているクラブのなかでも日本人選手にゆかりのある、マンチェスター・ユナイテッドを取り上げてみたいと思います。皆さんもご存知の通りかもしれませんが、今から約140年前の1878年にマンチェスターの鉄道員が中心となって、ニュートン・ヒース・ランカシャー&ヨークシャー・レイルウェイズFC(Newton Heath LYR FC)として創立されました。1878年というと、日本では明治11年。廃刀令が出されたのが1876年、東京大学が設立されたのが1877年、上野動物園が開園したのがまさに1882年ですから、そう言った時代でした。

そのような中生まれた鉄道員によるフットボールクラブが、長く時間をかけて世界一と呼ばれるまで成長してきました。近年の動きとしてみれば、当然ファーガソン監督の退任による低迷期にある感じですが、ファイナンス面を語るにあたり外せないのがやはりクラブのオーナーにまつわる話。グレイザー家が現在はオーナーということではありますが、少しだけ履歴を辿ってみたいと思います。このグレイザーを率いたのがマルコム・グレイザー。時計の販売業に始まり、不動産でビジネスに成功し、ショッピングモールなど事業を多角化しつつも2014年に86歳で死去。スポーツ界の実績でいくと1995年にNFLチームタンパベイ・バッカニアーズを買収。これが大当たりし2002年にスーパーボール制覇するなど大きく飛躍しました。その勢いも背中を押したのか2003年からマンチェスターUの株を取得開始。約2年かけて当時の金額で総額約14億7000万ドルで支配権を獲得しました。ところがクラブ買収資金の大半はクラブ資産を担保に入れた高利息の単純な“借金”だったこともあり、そしてそこにリーマンショックが重なってしまい資金繰りが悪化。買収前は優良財政クラブでしたが、一転して多額の負債クラブとなってしまったのは有名なところです。

さてそのマンチェスターUですが株式が公開されています。ニューヨーク証券取引所に登録されており、1株から購入可能です。5月23日現在の株価は1株15.69ドルですから、日本円で1700円前後になります。ここ5年で一番株価が落ちているのが2016年の3月24日ですから、この年はまさにミラクル・レスターこと岡崎選手が所属していたレスター・シティーが優勝したシーズンで、マンチェスターUは5位に沈んだシーズンでした。3月24日は第31節のダービーに勝利した後でしたが、その戦いぶりに失望感が広まったのでしょうか、株価が落ちました。

一方、ここ5年間で一番高かったのは2018年の8月31日。価格は26.20ドルで約3000円。私の記憶が確かであれば、移籍最終日を目前にモウリーニョ監督がインタビューで大物移籍を交渉中と発言したような。結局最終日に噂されていた新選手を獲得することはできず、同時にトゥアンゼベ、フォス・メンサー、ボースウィック=ジャクソンなどの有望なユース出身のディフェンダー陣を次々とローンアウトで出してしまった時期だったと思います。おそらく株価の上昇の原因は、最終段階まで行っていたであろうセンターバックの大物選手獲得の期待から上昇したものと思われます。

このように、選手の移籍やチームの成績に左右される部分が非常に大きな比重を占めるとされるフットボールクラブの株価を追いながら市場のニュースを読み解くということも一つフットボールの楽しみ方なのかもしれません。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)