レアル・マドリードの本拠地、エスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウ。今回はこのスタジアムの改修工事に見るレアル・マドリードの狙いを見てみたいと思います。

1947年に開場したこのスタジアムは、マドリードメトロの10号線サンティアゴ・ベルナベウ駅徒歩3分という場所にあり、まさにマドリード市・北の玄関口と言われるプラザ・デ・カスティージャからも歩いて20分ぐらいの都心にあります。周辺はマンションとオフィスビルがあり、試合がない日は比較的閑静な場所と言えます。第2世界大戦の最中、1930年台のスペインは、ファシズムと共産主義がぶつかった内戦が勃発しました。ヨーロッパの大国で第2時世界大戦に参戦しなかった数少ない国の1つでもありますが、その内戦で長きにわたって使われてきたレアル・マドリードの本拠地であったエスタディオ・チャマルティンが崩壊。現地のメディアでは、スタンドに使われていた木製の椅子が燃料に使用されたとありました。建設当初は3万人弱の収容人数でしたが、実際のところ大きな試合では倍近く入場し、立ち見で埋まっていたという記録がありましたが、1952年に拡張し、12万人というメガ・スタジアムに変貌。圧倒的な集客能力を保持しておりましたが、立ち見禁止の規制を受け今の形(収容人数9万人弱)になったようです。

大きな転機は1982年のスペインワールドカップ(W杯)。自国開催ということもあり、バルセロナの本境地、カンプノウも含めて多くのスタジアムが改修されました。その後2000年に、現在の会長でもあるフロレンティーノ・ペレス氏が会長に就任。深刻な赤字体質を脱却するプロジェクトの1つに、このスタジアムもラインアップ。業界に先駆けてデジタル対応化のインフラ整備に着手し、これによりスタジアムは世界で初めて総合コントロール室で全てを制御するシステムとなる大変貌を遂げ、同時に「年間365日営業」をキーフレーズにスタジアム・ツアーも開始するなどしました。

実に、レアル・マドリードの本拠地の使用率で見るとリーグ戦38節のうちホームゲームは半分の19試合。ここにコパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグなどカップ戦が入ってくるのですが、それぞれ初戦で敗退するとホームゲームは3、4試合のみということになります。つまり、最低で25試合弱。最大でも33、34試合前後になりますので、この数字で見ても年間稼働率は僅か10%にも満たない数字になります。当然芝の養生など、メンテナンスは必要ではありますが、それにしても非稼働率が高く、収益性で考えると効率は良くない持ち物でしかありません。ここにメスを入れたわけなのですが、365日稼働させるために腕の良いシェフを揃えたレストランを配置。さらに市内最大級のメインスポンサーでもあるアディダスショップの設置、さらには駐車場付きのスーパーマーケットの設置などすることで常に人が出入りするスタジアムとすることで稼働率を高めました。

そのスタジアムが今さらに進化しようとしています。全天候型の開閉式屋根を施したアリーナ型にすることで天候に左右されずに使用することができ、360度巨大スクリーンの設置、外壁のプロジェクションマッピング投影、ホテル施設の設置など今までにない巨大エンターテインメント複合施設になります。さらに業界初となるピッチをスタジアムの地下に格納する「ピッチ格納システム」を導入するなど、今までにないスタジアムに。この3、4年は色々と揉め事が多くなかなか進行スピードが上がりませんでしたが、一気に工事が進みました。その最終的な総工費は約9億ユーロ(約1215億円)とも言われ、大きな出費になることは間違いありません。

しかしその出費も回収の目処がすでに立っているという秀逸ぶりです。アメリカのイベント会社と大型契約を発表。20%の株式譲渡と25年にわたるイベント興業権利の譲渡の引き換えに、最大4億ユーロ(約540億円)がレアル・マドリードに。365日のうちの8割近い“空白”をどのように活用して回収するかという部分でいけば、単純計算で4億ユーロを25年で割ると1年当たり約1600万ユーロ(日本円で約21億円前後)。現地の報道によれば、NFLやNBAの公式試合マドリード開催が組まれるなど、チケット収入やグッズの収入などで十分に回収可能という算出なのかもしれません。

現地の報道では国からの特別融資や銀行からの借り入れなど含めて巨額の資金調達に成功しているだけでなく、巨大地下駐車場の設置を新たに目論むなどさらなる事業を組み合わせ、最新の計画表では年間1億ユーロ(約135億円)以上の収入が見込めるとしています。

レアル・マドリードの年間チケット収入はコロナ前で約180億円前後とされていました。ここからすると、試合がない年間8割近くの空き時間を稼働させることでチケットと駐車場だけでも300億円近くの売上になってくることが見込めることになります。巨額な数字のやりくりに頭が混乱しそうです。

そんなチームの将来を大きく左右する次世代の新しいスタジアムですが、その目玉となり得る、チームを象徴する選手を獲得できるかどうかも大きく左右することになりそうです。新たな時代に向けた船出を豪華に行うことができるのか、この夏の注目すべき、最大のニュースになりそうです。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」