宴が終わった。世界中がサッカー一色になり、日本列島もサッカーで沸いた。各種メディアでは解説者や専門家が、日本の戦いを局面的に分かりやすく説明する。サッカーに興味のない人にも優しく解説してあげたいという気持ちがあったのだろう。でもサッカー人としては少し物足りなさを感じる。誰もが局面の解説はするが、今後の日本サッカーへの方向性など、進む道への具体的な解説はなかったように思える。

私は、日本代表は日本人が指導した方がいいと思っている。理由は簡単だ。日本のサッカーを確立してもらいたいからだ。今回のW杯カタール大会もそうだったが、ブラジルにはブラジルのサッカーが、アルゼンチンにはアルゼンチンのサッカーがあった。同じ欧州でも、フランスやイングランド、クロアチア、スペイン、オランダなど国によってそれぞれ違った独自のサッカーがある。年月がたち、進化してきてもベースは変わらない。

では日本のサッカーはなんだろう。誰も明確な答えは出さない。しかし今回、森保監督がそのビジョンをしっかり表現してくれた。一言で言えば「堅守速攻」。過去にはトルシエ氏はフランス流、ジーコ氏の時はブラジル流と、監督によって目指す方向が違っていた。それぞれ契約が終わって国へ帰れば、はい、それまで。これでは何年たっても世界と戦うための日本のスタイルは確立しない。

10年W杯南アフリカ大会が終わった後、静岡・御殿場で当時の日本代表監督だった岡田氏の慰労会があった。約60人のサッカー人が集まった。冒頭のあいさつを頼まれた私は壇上に上がって「この中で岡田氏の後に日本代表監督をやる勇気のある者はいるのか」と聞いた。10人以上が「はい、やります」と、手を挙げた。オシム氏が急病で倒れた時はその後をつぐ者がすぐには見つからず、岡田氏が監督になった。でも、こんなに意欲のある指導者がいると確認できてうれしかった。その時から、日本代表監督は日本人で、という気持ちがさらに強くなった。

世界と比べて日本人はフィジカルが弱い、パワーが足りないなどと言われる。しかし日本人にはその弱みを上回るものがある。勤勉さや協調性、犠牲心、探究心はもちろんだが、狭いところから瞬間的に飛び出す速さ。これはドイツ戦で浅野選手が、スペイン戦で三笘選手が証明している。相手の視野から消えて背後を突く動き、一直線のスピードではなく、細かいステップからの横と縦を織り交ぜたスピードなど、世界トップの能力が発揮できるものを持っている。これらはすべてサッカーでは重要な能力で、相手にとっては脅威な武器でもある。

W杯が終わって森保監督も選手たちも「もっと個を伸ばす」と言った。「個」とはなんだろう。40年以上も前を思い出す。当時指導委員会の海外研修で約40日間、イングランド、オランダ、ドイツに行った。研修が休みの日曜日。私は仲間とロンドンのハイドパークでボールを蹴っていた。子どもから大人まで現地の人が集まって試合をした。我々日本から行ったメンバーはポンポンとボールをつないでゴールを決めて喜んだ。でも英国人は喜ばない。

「なんでだろう」。不思議に思ったが、すぐにその理由が分かった。ボールを持った人が、トリッキーなフェイントでマーカーを振り切ると、その人と周りのみんなが試合を止めて歓声を上げて喜んだ。その時、思った。「サッカーはチームスポーツだが、細かく刻むと1対1の局面の連続だな」と。今思えば、これこそ「個」であり、欧州では子どもの時からこうやって「個」を伸ばしている。その「個」が集まってチームになるわけだ。

日本は全員が連動し、連係を取りながら相手を崩すことにはたけているわけだから今後、1対1の勝負をどう打開していくか。1対1の場面で相手をどう止めるか。代表選手たちがそれぞれのクラブに戻って4年間、その「個」を伸ばしてくれれば、次のW杯ではまた違う景色が見られるかもしれない。

「個を伸ばす」という言葉は抽象的だが、試合中に常に展開される1対1の場面をどう打ち勝つかが、その核心になる。今回のW杯に出場したメンバーもそうだが、将来日本代表を目指す少年少女、高校生、大学生、Jリーガーなど、すべての年代で「個」を伸ばしていけば、今までとは違う景色がベースになる時代が、当たり前のように来ると信じている。(大澤英雄=学校法人国士舘理事長)