森保一監督率いるサッカー日本代表が、7大会連続のワールドカップ(W杯)出場を決めた。最終予選の序盤3試合で1勝2敗というつまずきから、6連勝での逆転進出。その分水嶺(れい)となったのは、システム変更だった。
■田中碧の得点から始まった
1勝2敗で迎えた4戦目のオーストラリア戦(21年10月12日、2-1勝ち)。後がない日本は4-2-3-1から、FW3人が並ぶ4-3-3へ変更した。
一貫した戦い方だった森保監督による決断。システムを変えるということは、人も変えること。同時にチームが変わった。最終予選初先発となったMF田中碧が、開始8分で得点したのは象徴的な場面だった。
この田中に遠藤航、守田英正の中盤3人は、運動量が豊富で球際に強いのが特長。ハードワークで中盤を制圧し、テンポよく前線へとパスを排球した。従来より1つ前、右FWとなった伊東純也の役割が明確になり、水を得た魚のごとく躍動した。縦に速い特性を強く打ち出すことで、手数がかかり詰まり気味だった課題の攻撃が活性化した。
現代フットボールのポイントは、局面をどう制圧し、時間とスペースを生み出すか。攻守の「トランジション(切り替え)」がカギだ。欧州サッカーを見ても、4-3-3が潮流となっている。
システム変更によってチームがよみがえることは多々ある。
例えば、2010年W杯南アフリカ大会を戦った岡田ジャパンは、大会前の韓国戦(0-2負け)での4-2-3-1、イングランド戦(1-2負け)とコートジボワール戦(0-2負け)での4-4-1がうまく機能しないとみると、本番では4-3-3に切り替えた。
本田圭佑をトップに上げ、中盤底のアンカーに阿部勇樹を置く布陣。相手ボールとなれば4-5-1と可変する現実的な戦い方。守から攻へのトランジションが速まり、ボールの循環が良くなった。ベスト16という好成績につながった。
その裏で、システムが変わることで人も変わった。それまで司令塔として絶対的な存在だった中村俊輔が、ベンチに座ることになった。
システムとは何か。血の通う「生きもの」とも表現できまいか。そのやり方次第でチームは躍動したり、停滞したりする。
その現代フットボールにつながるシステムの原形は、オランダにある。
■オランダのトータルフットボール
60年代後半から70年代にかけてヨハン・クライフが所属していたアヤックスによってつくられた。監督のリヌス・ミケルスは規律を植え付けると同時に、最前線から最後尾までコンパクトな陣形を保ち、ポジションチェンジを頻繁に行うよう求めた。その基本陣形は3-4-3だった。
1971年から欧州チャンピオンズカップを3連覇すると、74年のW杯ではミケルス監督、クライフのいるオランダのサッカーは「トータルフットボール」として世界に衝撃を与えた。
マンマークの時代にポジションチェンジは相手の陣形をカオスにするもので、従来の固定化された陣形はなすすべなし。既成概念を壊すものだった。
88年欧州選手権でもミケルス監督のオランダは、ルート・フリット、マルコ・ファンバステン、フランク・ライカールト、ロナルド・クーマンらを擁して頂点に立つと、そのスタイルは欧州中に波及した。フリットら3選手が在籍したACミラン(イタリア)の指揮官、希代の戦術家アリゴ・サッキは、最前線から最後尾の距離を約30メートルというコンパクトにまとめた「ゾーンプレス」という戦術をつくった。
89年のトヨタカップ。国立競技場のバックスタンドから見た光景は今も忘れられない。相手をのみこみ無力化する戦い方。これまでのサッカーにないスタイルだった。最後尾のフランコ・バレージが前へDFラインを一気に押し上げるたびに、スタンドはどよめいた。
翌年のトヨタカップにも2年連続で参加したACミランは、4-3-3の右FWにフリットがいた。時間と空間を支配すると、右のフリットへボールを回し、その華麗な技にまたスタンドが沸いた。これが世界のサッカーなのだと感動した記憶は今も色あせない。
サッカーにとってシステムとは、ただのピッチ上の数字にあらず。そこにはチームとしての意志が生まれ、個々の持ち味を最大化させる。
ミケルス、クライフの下でサッカーを学んだクーマンが、以前にこう語っていた。
「相手の出方を待つのでなく、相手にこちらの意志を押しつけ、イニシアチブを取りながらプレーする。攻撃的になるのは当然です」
■バルセロナでクライフの薫陶
オランダはわずか人口1600万人(日本の8分の1)という小国。だが歴史的にも大航海時代に海を渡り、世界へとネットワークを切り開いた開拓者精神旺盛な面が強い。
時代の潮流は、クライフが指揮したバルセロナへつながり、そこから進化を続ける。現代フットボールの寵児(ちょうじ)、ジョゼップ・グアルディオラもまた、バルセロナでクライフの薫陶を受けた。
そして90年代まで隆盛を誇ったジネディーヌ・ジダンやデニス・ベルカンプのような「トップ下の10番」は、4-3-3の中盤から姿を消した。「デュエル」「インテンシティー」という言葉が表現されるハードワーク全盛時にあって、中盤は両チームがぶつかり合う場。違いを生み出せる選手は右FW、左FWへとすみかを変えた。
話を戻して日本代表。6連勝でカタール切符をつかんだ道のりは素晴らしかった。システムとはまさに「生きもの」なのだと確信した。
そして最終予選を4-3-3で乗り切ったチームは、11月の本大会ではどういった姿になっているのか。今回メンバーから外れた堂安律、鎌田大地、はたまた新たな選手の台頭で、システムが変わってくる可能性は十分にある。
アジア最終予選とは別ものとなってくるW杯。そこで史上初の8強をクリアするため、森保監督はどう動くのか。また違ったカタチが見えてきそうだ。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)