酷暑の8月が去り、暦(こよみ)は「長月」。来季の日本フットボールリーグ(JFL)昇格を目指し、地域リーグが佳境に入っている。J1から数えると5部相当。最大の激戦区の関東では、9月4日の後期第6節で東京ユナイテッドFCと南葛SCが激突した。
■チームカラーが異なる2チーム
東京23区内に拠点を置くチーム同士のダービーマッチだが、チームカラーはくっきりと異なっている。フレッシュな大卒1、2年目の選手が目立つ東京U。豊富な運動量を生かし、切り替えの速い攻守が持ち味だ。
それに対し、南葛はプロ経験豊富なベテラン選手がそろう。この日の先発メンバーに元日本代表組はいなかったが、MF楠神純平、DF下平匠ら7人の元Jリーガーが名を連ねた。
午後6時のキックオフ。東京・小石川運動場は日暮れを迎えても、蒸し暑さが残る。熱気が立ち込めるピッチ。血気盛んなフットボーラ-たちを狙ってか、すぐそばの小石川後楽園に生息する蚊たちが次々と血を求めて飛来。小さな吸血鬼が、汗ばむ肌にまとわりついてくる。
試合開始を告げるホイッスルの音が響くと同時に、激しい球際の攻防が続いた。南葛がボールを持てば、間髪入れずに東京Uの選手たちが襲いかかる。時間、スペースを与えない。相手の持ち味を消すことで、自分たちのペースに持ち込もうとした。
そんな狙いがはまった。東京Uは前半27分、最前線を狙ったロングパスを起点に相手陣内に押し込み、チャンスを広げる。ペナルティーエリアへ送った鋭いパスから混戦となり、最後はMF飯田虎之介が左足でゴールへ蹴り込んだ。
1点を奪ったことで、東京Uの出足がさらに加速する。南葛がボールを細かく散らせば、そこを狙ってボールに食いついていく。ボールを奪えば、手数をかけずにシンプルにゴールへと向かう。そんな展開が続いた。
南葛は状況を打開しようと、後半26分に元Jリーガーで187センチと大柄なFW長谷川悠を投入した。7月末にクラブに加入したばかりで、この日が初出場。その長谷川へロングボールを入れることで、攻撃に変化をつけた。だが、東京Uは最後まで集中力を切らすことなく、「吸血鬼」と化して次々とボールに食らいつく。付け入るスキを与えず、そのまま1-0で試合終了。ホームの小石川で凱歌(がいか)を揚げた。
■首位に栃木シティ、東京Uは3位
この節終了時点での順位はこうなった(※全18試合)。
1 栃木シティFC=33(15試合)
2 東京23FC=29(14試合)
3 東京ユナイテッドFC=28(14試合)
4 VONDS市原FC=22(15試合)
5 ジョイフル本田つくばFC=18(15試合)
6 ブリオベッカ浦安=17(15試合)
7 流通経済大ドラゴンズ龍ケ崎=16(15試合)
8 東邦チタニウム=13(14試合)
9 南葛SC=13(15試合)
10 エスペランサSC=12(14試合)
■エースの穴埋めるハードワーク
東京Uは強敵を下したことで、自力優勝の可能性を残した。黄大俊(ふぁん・てじゅん)監督は「勝っても負けてもおかしくない試合で、最後までハードワークを体現できたことが勝因。1人1人の技術レベルを見れば相手が上なので、1対1で勝てないなら2対1をつくる、3対1をつくる。そのためにはハードワークをしないといけない」と語った。
順天堂大から加入1年目のFW長倉幹樹が、8月にJ2ザスパクサツ群馬へと移籍した。8ゴールで今季得点ランキングトップに立っていたエースが奪われた形だが、その穴を埋めるべくチームはよりハードワークを徹底している。34歳の指揮官は「走り切れるトレーニングをしているが、それが結果に出ているのは選手にも、スタッフにも自信になる」と喜んだ。
残り4試合。2位の東京23FC戦、首位の栃木シティFCとの最終節もあるだけに、黄監督は「まだクラブとしてKSL(関東リーグ)の優勝がない。自力でそこにチャレンジできるチャンスがある。一戦、一戦、全力で戦っていく」。リーグ優勝の先には、目標と掲げるJFLもある。
■全国社会人大会から昇格を目指す
一方で南葛は9位と予想外の苦戦が続く。元日本代表選手の稲本潤一、今野泰幸、伊野波雅彦、関口訓充らが加わり、大きな注目を浴びるチーム。クラブ関係者は「注目度が高く、相手も負けたくないという気持ちでかかってくる。必然的に相手のレベルを引き上げている」と分析する。
森一哉監督は「相手の気持ちが細かいところで上回っていたのかな」と言いつつ、「相手は負けたくないとプラスアルファの力を出してくる。それでも毎試合、相手を凌駕(りょうが)して勝つことが大事」と唇をかんだ。
ただリーグ優勝がない南葛にも、JFL昇格の道はまだ残されている。来月に行われる全国社会人サッカー選手権(10月14~19日、鹿児島・志布志)で3位以内に入れば、全国地域サッカー・チャンピオンズリーグ(地決、11月11日~27日)へ進む。その「地決」で原則として上位2チームに入れば、JFL昇格が現実のものとなる。選手層が厚い上に経験豊富な選手がそろう南葛だけに、可能性は十分にありそうだ。
関東リーグは9月25日が最終節。残暑が落ち着き、忍び寄る秋の気配とは裏腹に、ピッチの熱気はここから一気に高まっていく。【佐藤隆志】