スポーツビジネスの最前線を解説する、戦略コンサルティングファーム「FIELD MANAGEMENT STRATEGY」幹部による不定期コラム。第2回目の今回はBリーグの横浜ビー・コルセアーズ代表取締役も務める白井英介プリンシパルです。
第1回は中村代表取締役が担当で、日本プロスポーツクラブ経営の特殊性などについて記します。
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◆収入差、30倍…。欧州リーグでクラブ間の格差を固定化する構造的問題
世界で最も大きな市場と言える欧州サッカーリーグに目を向けると、Deloitte のリポートによれば、2022-23シーズンのプレミアリーグでは、マンチェスター・シティのコマーシャル収入は3億4700万ポンドに達した一方、AFCボーンマスは1300万ポンドにとどまった。同一リーグに属しながら、単一の収入項目で約30倍の差がついている。ラ・リーガでも、202-24シーズンに欧州クラブ初の年間収入10億ユーロ超を達成したレアル・マドリードと、同リーグ残り18クラブの平均収入(約1億900万ユーロ)には約9倍の開きがある。欧州主要リーグの構造は、リーグ内部で売上規模が発散し、上位クラブが資本とブランドを累積させていく構造だ。
この発散構造が、後発クラブにとって最大の障壁となる。新オーナーが相応の資金を投入しても、そもそもトップリーグに参入する難易度が非常に高いうえに、リーグの中堅層から「トップ・オブ・トップ」の収益規模に到達することは現実的には不可能に近い。欧州のトップクラブは、国内リーグ収入に加え、UEFAチャンピオンズリーグの分配金、グローバルスポンサー、国際市場での商業展開によってさらに規模を拡大する。結果として、競争は国内リーグという「土俵」を越え、世界的エンターテインメント資本の領域に移行する。
一方で、日本のプロスポーツリーグに目を向けると、リーグの規模やクラブ数が大きく異なるため単純な比較は難しいものの、リーグ内格差が比較的小さいことに気が付く。Jリーグが公表した2023年度クラブ経営情報では、J1の売上最高は浦和レッズの103億8400万円で、リーグ史上2クラブ目の100億円超となったものの、最も小さいサガン鳥栖は24億9700万円で、トップとボトムの差は約4倍に収まる。また、J1クラブの多くは30億7000万円の帯に位置し、極端に突出したクラブが存在しない。絶対規模は欧州に及ばないが、同一リーグ内の財務格差はまだ「収束」している領域にある。
◆強者総取りを許さない-北米4大スポーツの制度設計と、残る問題点
北米4大スポーツは、欧州と異なる形で格差を抑制している。
NFLやNBAでは、サラリーキャップによって選手報酬総額に上限が設定され、過度な資金投入による戦力固定化が抑えられる。さらに、ドラフト制度により前年度順位の低いチームから有望選手を指名できるため、弱いチームが戦力を補強しやすい。競争均衡はルールで担保され、プレーオフ進出チームは毎季一定程度入れ替わる。
もっとも、米国のプロスポーツ市場はすでに成熟しており、既存フランチャイズの評価額が極めて高い。そこに新規オーナーが参入する場合、取得コストは数千億円規模となる。
◆経営次第でチームが強くなる-日本のプロスポーツが面白い理由
こうした欧米の二極構造と比較すると、日本のプロスポーツは第三の位置にある。NPBを含む多くのクラブは伝統的に親会社の単一資本によって運営され、球団が企業グループの広告、ブランド、地域貢献の機能を担う。黒字化よりも事業継続が優先される場合が多く、欧州のように赤字クラブが売却・降格で淘汰(とうた)される構造とは異なる。
この構造は、クラブ間の財務格差による淘汰(とうた)リスクを抑える一方で、親会社の投資姿勢によって価値が伸びる余地も大きく残している。
バスケットボール界ではさらに構造改革が進む。Bリーグは2026-27シーズンから新トップカテゴリー「B.LEAGUE PREMIER」を創設し、選手報酬総額に上限8億円・下限5億円のサラリーキャップを導入予定である。あえて二元論化すれば、資金規模に依存する欧州型ではなく、戦略と運営能力を前提とした米国型への移行と見ることもできる。同リーグのクラブ売上は上昇傾向にあり、2024-25シーズンのクラブ営業収入合計は713億円、リーグ事業を含む総規模は約810億円に達した。特に新アリーナの開業は成長に直結し、千葉ジェッツはLaLa arena TOKYO-BAYの効果により営業収入51億7000万円を記録、長崎ヴェルカは入場収入が前年の約2・6倍となった。
日本では「施設投資と経営能力が成果を生む」余地が現実的に存在する。
2025年には具体的な資本参入も表面化した。ソフトウエア大手のサイボウズはBリーグの愛媛オレンジバイキングスを運営する愛媛スポーツエンターテイメント株式会社に対し第三者割当増資を引き受け、議決権ベースで50・15%を取得し、人的資本や組織運営ノウハウをクラブ経営に直接導入する形態を選択した。この動きも、新規参入によって中規模クラブの価値向上に主体的に関与する余地が残っていることの証左と言えるのではないか。
欧州はクラブ規模が既に発散し、トップ層が過度に肥大化している。米国は制度により競争均衡を保つが、参入障壁が高い。日本のプロスポーツは、まだ市場が成熟しきっていない段階にあり、リーグ内格差も一定範囲にとどまる。後発クラブや新規オーナーにとって、財務面・制度面での可動域が存在することが、日本市場の特徴であり、経営者の腕の見せどころと言える。(FIELD MANAGEMENT STRATEGYプリンシパル)
◆白井英介(しらい・えいすけ)1987年(昭62)埼玉県生まれ。楽天株式会社で組織開発に従事したのち、経営戦略コンサルティングファーム株式会社FIELD MANAGEMENT STRATEGY(FMS)プリンシパルに。スポーツ・エンターテインメントなど多様な業界で新規事業開発やマーケティング戦略立案を手がける。コンサルティングとプロクラブ経営の両面からスポーツ産業の発展に取り組む。プロバスケットボールBリーグ所属「横浜ビー・コルセアーズ」代表取締役。





