シャビ・アロンソに質問ができるとしたら、皆さんは何を聞いてみたいだろう。そんな幸運に巡り合えた高校生がいた。今回の全国高校サッカー選手権で準優勝した流通経大柏のMF菊地泰智選手(18)は、アディダスのイベントとしてシャビ・アロンソ(36=元スペイン代表)が来店した東京・渋谷の店内で、トークショーの中で迷わず切り出した。

 「ポゼッションサッカーで大事なことは何ですか?」


 シンプルだが、サッカーそのもののエッセンスを突く鋭い言葉だった。

 すぐにシャビ・アロンソは答え始めた。日ごろから、若い選手のこうした質問に慣れているのか、普段から自問自答してすぐに自分の言葉で説明できるようになっているからなのか。通訳を介しての内容は、分かりやすく、そして深かった。

 シャビ・アロンソ 私は味方の最終ラインにストレスを与えないよう、それを大切にしていた。私のポジションから全体を見ていると、FWは自軍に近い位置でボールを受ける時は比較的集中が足りない時がある。だから、ボランチから前線にボールを送っても、簡単に失うことがある。ただ、ここで大事なのはボランチからボールが出た時に、味方の最終ラインは攻撃へと気持ちがシフトする。それが、すぐにボールを奪われてカウンターが始まると、即座にディフェンスへと気持ちを切り替えなければならない。試合の中ではよくあることだが、この繰り返しにより、最終ラインがストレスを感じることがなるべく少なくなるよう、前線への配球を考えていた。

 とても専門的にも感じるが、話している内容からは明確な意志が感じられる。FWの性質を踏まえ、それに最終ラインが振り回されないよう、全体を見渡しながら配球している、ということだと理解した。

 「攻守の切り替え」。誰でも理解できる、攻撃の中でボールを失った直後に守備に回り素早くボールを取り戻す。守っていても、相手のパスミスやインターセプトなどでボールを奪った瞬間、連動して攻める。この攻守の切り替えが速く、集中力を切らさずに試合の中で何度でもチームとして連動して動けるのが、現代サッカーでは重要なファクターになっている。

 そのベースを踏まえた上で、シャビ・アロンソは最終ラインへの配慮を大切にしていた。

 この答えを聞いた菊地選手は、すぐにサッカー仲間とシャビ・アロンソのプレーを動画などでチェックしたという。「シャビ・アロンソが言っていたことが、実際の試合の中でも実践されていたことが分かりました」。ものすごい吸収力だ。スペインが世界に誇るパスサッカーだ。その心臓部分を担ってきた名プレーヤーの言葉から、18歳は多くを学び、それを自分のものにしようとしている。

 サッカーではゴールシーンに醍醐味(だいごみ)が凝縮されている。そこを見たくてファンはスタンドに行く。その最も華やかで、輝くシーンの何手も前の段階で、優秀なボランチは、さらされるであろうリスクを減らそうと、周囲に目を配り、各ポジションの心理を読む。そして、その神髄を学ぼうと目を輝かせる高校生がいる。

 W杯ロシア大会で日本代表が戦う1次リーグ3試合の結果がもたらす影響力は計り知れないが、若い選手たちは冷静かつ深く知ろうとする意欲を持って世界のサッカーを見詰めている。若者が一流から学んだ時、その先に見えるのは、我々世代が想像できないレベルのサッカーになっているかもしれない。【井上真】


 ◆井上真(いのうえ・まこと)1965年(昭40)1月4日、東京・小金井市出身。90年入社。野球、相撲、サッカー、一般スポーツを担当。入社当初はプロレス取材でサーベルをくわえた狂虎タイガー・ジェット・シンに本気で追われ、ワープロを捨てて逃げた。