川崎フロンターレの試合日のスタジアムのイベントに、著名人による始球式がある。PKスポットから、始球式の出演者がボールを蹴るスタイルだ。記者が担当してから、映画「シンゴジラ」のプロモーションを兼ねて出演した俳優長谷川博己が美しい弾道のシュートを決めるなど、エンターテインメント性あふれるイベントになっているが、ごくまれに、PKを失敗する出演者もいる。

記者が覚えているのは、お笑いユニット、パンサーの尾形貴弘と、3人バンド・SHISHAMOだ。16年3月に、中央大サッカー部出身の尾形は蹴ったボールがポストに直撃し失敗。SHISHAMOは3人で、フェイントキックを入れる「トリックプレー」を取り入れ、クロスバーに当ててしまった。ちなみに、ともに川崎Fの試合結果はドロー。「始球式で外すと勝てない」とのイメージが個人的に強くなっていた。

そして今季。2月23日のホーム開幕戦で、川崎市出身のヒップホップアーティストのT-Pablowが始球式に登場した。ゴール左隅を狙ったボールはネットを揺らせず、左に外れてしまった。その瞬間「これはもしや…。今回も引き分け?」と、過去の記憶がよみがえる。そして、結果は東京と0-0のスコアレスドロー。引き分けだった。

でも、考えてみれば、尾形、SHISHAMO、T-Pablowはいずれも、ホーム開幕戦に“登板”。リーグの中でも一番、緊張感が高まる試合で大役を務めているのだ。緊張もするだろう。それでもわずかに枠を外れる。いかに、PKが難しいのかよく分かる。始球式でPKを外すと「勝てない」のジンクスはあるかもしれないが、裏を返せば「負けない」。SHISHAMOが外した年は、最終節で川崎Fがリーグで初優勝を果たした記念すべき年なのである。さて、今年は??? 今後も、開幕戦の始球式に注目したい。

◆岩田千代巳(いわた・ちよみ) 1972年(昭47)、名古屋市生まれ。95年入社。主に文化社会部で芸能、音楽を担当。11年11月、静岡支局に異動し初のスポーツの現場に。13年1月から(当時)J1磐田を担当。15年5月、スポーツ部に異動し主に川崎Fを担当。