今冬の全国高校選手権で大阪代表として初出場した興国(大阪)では、この8年間で16人のプロ選手を輩出したと、当欄で書いたのが約1カ月前。驚異的なペース、そして確固たる育成方法だと強調したかった。

迎えた2月11日、またも興国からプロ選手が誕生した。今度は3人同時、17、18、19人目の誕生だ。現2年生のMF樺山諒乃介、DF平井駿助、GK田川知樹(いずれも17)が、3人とも昨季のJ1王者横浜F・マリノスへの入団が決まった。1つの高校の部活から3人同時、しかも入団は1年後のこと。まさにハットトリックとでも言わせてください。

実は樺山と田川に関しては既に昨秋から横浜入りが内定していて、全国高校選手権の時には本人たちも、その自覚を持ってプレーしていた。樺山はU-17日本代表に選ばれていた一方で、田川は大阪の国体選抜に入った程度。無印に近いながら、横浜やセレッソ大阪の練習に参加して、すべてに急成長した。

田川のすごさは身長は180センチと高さはないのに、相手の得点機会を阻止する動きが秀逸だ。両手、両足を巧みに使ってシュートを枠の外へとはじき出す。甘いマスクも同じだから、横浜OBの川口能活2世とでも言いたいが、あそこまで闘志を出すタイプでもない。凜(りん)とした表情で失点を許さないところが、逆にすごい。

今回の全国高校選手権は、初戦の2回戦で昌平(埼玉)に0-2で完敗した。試合後の田川のコメントは「1対1で完全に負けていた。僕は2年生なので、昌平のレベルに近づいて次は倒したい。シュートストップの技術を上げてここに戻ってきたい。今日のことは忘れずに自分を高めたい。僕は技術を売りにしていただけに、技術で負けたのは悔しい。差を感じました」。決して涙を流すのではなく、冷静に振り返る姿が印象的だ。

今回の内定発表の3日前、記者は偶然だが、Jリーグの今季最初の公式戦、富士ゼロックス・スーパー杯で横浜とヴィッセル神戸の試合を取材していた。横浜の守護神は朴一圭(30)。11人目のフィールド選手としてパスの起点になり、高いラインを保たせていた。PK戦で敗れたが、非常におもしろいサッカーを演出するGKだった。

田川の在籍する興国も、GKから攻撃の組み立てをするサッカーで、田川は足元の技術が特に高い。プロとアマチュアを同じ土俵で語るのは適切ではないかもしれないが、興国も全国高校選手権で、横浜も富士ゼロックス・スーパー杯で、その最終ラインでのパス回しを狙われて失点している。

試合後、興国の内野監督は「想定内」と断言したし、横浜ポステコグルー監督も「気にしていない」と言った。目先のミスにとらわれない環境は、田川には引き続いて成長の場になるはずだ。田川ら3人は、日本協会によってJリーグ強化指定選手に認定されれば、1年前倒しで今季中に横浜でJデビューできる可能性がある。

ちなみに富士ゼロックス・スーパー杯で、横浜の最終ラインのミスをついてゴールしたのが興国のOB、神戸のFW古橋亨梧(25)。アグレッシブな選手たちのおかげで、2020、21年と、Jリーグを見る楽しみが増えた気がしている。【横田和幸】

◆横田和幸(よこた・かずゆき)1968年(昭43)2月24日、大阪生まれ。91年日刊スポーツ入社。96年アトランタ五輪、98年サッカーW杯フランス大会など取材。広島、ガンバ大阪などJリーグを中心にスポーツ全般を担当。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)