黒人差別問題。米国では長年に渡る社会問題だ。

白人警官が丸腰の黒人に発砲し、それに怒る黒人を中心とした市民が抗議のデモ行進を行う。車が燃え、商店のガラスが次々と割られ、多くの黒人が商品を盗む。テレビはデモ行進とともに、この盗人たちの犯行映像を繰り返し放映する。白人警官による射殺の重みは少しずつ薄れていく。さらに政治家は、自分の支持層を結束させる手段として悪用することもある。

米ウィスコンシン州で起きた警官による黒人男性銃撃事件。息子3人の目の前で白人警官が銃を7発も発砲した。幸い命はつながったが、車椅子生活を余儀なくされた。市民は「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」と、フロイド氏死亡事件以来のデモ行進を行った。プロのアスリートも意をともにし、NBA、MBLなどの数試合がボイコットされた。NHLやNFLの練習ボイコットも続いた。

米国以外の国でも敏感に反応した。サッカーのプレミアリーグなどでは、テストマッチ前に「ひざまずくポーズ」で、差別に抗議するクラブがあった。各競技団体は差別反対の声明文を発表した。女子テニスの大坂なおみも「私はアスリートである前に1人の黒人女性です」と一時、大会をボイコットし、差別との戦いを宣言した。

一方、日本ではどうか。「黒人の命も大切だ」の解釈を「も」ではなく「が」か「こそ」と訳すべきなど、まったく論点を外す論争が起きることがあった。差別に反対する声明文を発表した団体も、あまり見当たらない。日本社会に黒人の数が少ないのも一因あるし、あまり黒人を差別しないからかもしれない。だが、黒人に限らず、差別は存在する。

これを機に、差別問題を具体的に考えてはどうか。14年3月、Jリーグ浦和のホーム試合で、埼玉スタジアム内に「JAPANESE ONLY(日本人に限る)」の横断幕が掲げられた。直前に「海外からの観光客も観戦したくなるリーグを作る」と宣言したJリーグとしては都合の悪い一件。村井満チェアマンは浦和へ、素早く1試合無観客試合実施を命じた。

スポーツは、社会に与える影響が大きい。早実時代の王貞治の存在が、国体の国籍規定を変えるきっかけとなったといわれる。東日本大震災で悲しむ日本に希望の光を差してくれたのは、なでしこジャパンだった。オリンピックの数々のメダル、印象的な場面が、何年立っても人々の記憶に残るし、ヒーローが生まれることもある。

だから、提案したい。Jリーグも世界中の各競技団体のように、差別問題に対するメッセージを発信してはどうか。サッカー文化を根付かせようとするJならではの発信力があるはず。DAZNは今後、Jリーグをグルーバル配信する計画があるという。日本全土へ、世界へ、Jならではの考えをはっきり示すことを願いたい。【盧載鎭】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、ソウル生まれ。88年来日、96年入社。サッカー担当23年目、2年間相撲担当。新型コロナウイルス拡散防止のため、家族旅行を自粛し、外食も最小限に抑えている。