J1京都サンガを率いる曹貴裁(チョウ・キジェ)監督(53)の言葉は興味深い。トーナメント制だった00年4強を除けば、クラブ史上初のルヴァン杯(前身のナビスコ杯含む)1次リーグ突破を果たした柏戦から一夜明けた19日、京都・城陽市内で取材対応した。

C組1位突破を果たし、名古屋とのプレーオフ(第1戦=6月4日、第2戦=同11日)を勝ち抜けば8強入りする。

まだ先は長いとはいえ、J1昇格1年目でのタイトルに1歩前進したことを問うと、こんな答えが返ってきた。

「そもそも『タイトルを取る!』なんて、今まで言ったことがないです。限界を1つ超えることができたのは、自信にはなると思いますけど」

どんなスポーツでも、監督や選手は「優勝を目指す」と答えることが多い。

現実的かどうかは別として…。

あえて高いところに目標を設定して日々、背伸びをすることで成長していくという考え方だろう。

ただ、曹監督は少し違う。

「『タイトルを狙う』と言葉にすることが、選手を良くするとは思えない。ブンデス(ドイツリーグ)でも本気でタイトルを目指せるのは数チームだけ。例えば新入社員がいるとして、『社長の座を狙いなさい』とは言わないと思うんです。それよりも目の前の試合で120%、150%の力を費やす方がいい」

今年1月にチームが始動した際にも、円陣でこんな言葉を投げかけていたのが印象的だった。

「順位を何位に上げるとかは全く興味がない。それよりもこのチームが見せるものが、日本のサッカーや世界の基準にならないかなと、考えている。京都から世界へ、京都が中心になるんだという気持ちを持った時に、お前たちしかできないんだよ」

あえてタイトルは口にせず、選手の持つ潜在能力を最大限引き出す指導法。

そこに、この監督の魅力があるような気がする。

「結果にはこだわらないといけないけれど、結果に左右されてはいけない。そこが選手と共有したい1番のポイント。勝つことで(選手の)評価が上がる。ルヴァン杯は自分たちの力をつけるいい大会だと思う」

12年ぶりのJ1で、リーグ戦は9位ながら4位柏とはわずか勝ち点3差。一時はアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)圏内(3位以内)を狙える位置にもつけた。

日々、強度の高い練習を繰り返し、J1でも通用する運動量とタフさがある。そこへ、じょじょに自信も芽生えてきた。

タイトルは目指さず、チームを強化する-。

秋が深まる頃、京都が優勝を狙える位置にいれば、面白い。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)