横浜FCなどでプレーし、「ジャンボ」の愛称で知られるFW大久保哲哉(43)が、プロ21年目のシーズンを迎える。今季も、J1から数えて7部にあたる神奈川県1部・FIFTY CLUBとプロ契約し、開幕戦で鎌倉インターナショナルFC(4月2日、鳩サブレ)と戦う。相手は今季から神奈川県1部に昇格したチームで、大久保は「相手は勢いを持ってくる。自分たちはチャレンジャーの気持ちでやることが大事。勝ち点3を取らないといけない試合。内容より結果にこだわってやりたい」と意気込んだ。

今季の大久保は、例年に増して現役へのこだわりが強い。昨年12月27日、父の茂樹さんが約5年にわたる闘病の末、死去した。77歳だった。大久保は幼いころ、高校球児で野球経験者の茂樹さんとキャッチボールで遊んだことを覚えている。大久保は野球ではなくサッカーへの道へ進んだが、大久保の一番のサポーターが父だった。

小学校時代からプロ入りまでは、練習試合を含め、大久保の全試合に駆けつけていた。プロ入り後、アビスパ福岡、モンテディオ山形と関東から離れたチームでプレーしていた際も、関東近郊の会場には必ず足を運んでいた。

「父は、自分が出る試合のこだわりは強かったですね。特にここ数年は、会うとサッカーの話ばかりしていました。自分のプレーが良くなかったら、はっきり、良くなかった、と言われましたし(笑い)。何せ、めちゃくちゃ見に来てるんで。客観的に見て、分かるんでしょうね」。

昨季は神奈川県1部で優勝し、昨年12月に関東2部昇格をかけた「関東社会人サッカー大会」に出場した。大久保は19年からFIFTY CLUBでプレーし、昇格をかけた同大会に出場するのは3度目だった。3度目にして、初めて、初戦を突破。一発勝負で、クラブの新たな扉を開く1勝を挙げたが、2回戦でPK戦の末に惜敗し、昇格を逃した。父は病床で試合結果を気にしていたという。大会が終わって間もなく、帰らぬ人となった。

大久保は「正直、(亡くなったことに)ピンとこないところはありまして。実家に帰ったら今でもいるんじゃないかなと思ってしまう」と寂しさを口にする。「父は自分がサッカーをやることを楽しみにしていた。だからこそ、1年でも長く現役を続けたい思いが、より強くなりました」と、現役への強い思いを言葉にする。

現在の環境は、Jクラブに比べ過酷だ。練習も人工芝で、夜9時から始まる。3月末だが、夜は冷え込む。それでも、ルーティーンの自主シュート練習は欠かさず、練習を終えるのは日付が変わるころだ。ロッカールームはない。練習が終わると照明が消され、街灯のわずかな明かりを頼りに、寒空の中で着替える日々だ。その中でも、19年は18試合18得点で得点王。20年は8試合9得点で得点王。21年と昨季は得点ランク2位で、40歳を超えても、得点力は衰えていない。

FIFTY CLUBの角野隆GM兼監督は、大久保について「Jリーグで99得点と、プロで長くやっていて、ボールをミートする能力はうちでは群を抜いている。技術も体力も衰えているわけでないし、ゲームを読み、統率する能力はJ時代から上がっていると思う」と評価する。指揮官は、昨季の昇格をかけた戦いで1勝を挙げたことを前向きにとらえており、チームとしても「新しい景色」への思いは強い。

大久保は「まずは、関東2部の昇格が一番の目標。そのためにも、自分のゴールが必要。チームのために点を取りたい」と、得点王奪還を掲げる。「おやじは、自分がプレーする姿を見るのが何よりも好きだったので。その思いを胸にプレーして、角野監督を胴上げできれば」。43歳の大久保が得点を量産し、チームを昇格に導く。【岩田千代巳】